ボロリン、と飛び出したそれ-2
お茶を淹れてあげた。
「うわ、なんか落ち着く…。素敵なお茶ですね!」
「でしょ?」
個人契約農園直送茶葉を特別にブレンドした私のオリジナル。
そして。
「これ、何ていうお菓子ですか?初めてですよこんなの。」
「ケーニヒス・クーヘン。祖母に作り方を教わったの。彼女の生まれた国ではスタンダードだって言ってたわ。」
私の手料理を一緒に食べ、コメの銘柄、産地、収穫年を指定して個人オーダーしたとっておきの日本酒を飲んで少しほぐれてきた二人は、上司の悪口やら会社への不満やら、お決まりの話題で盛り上がった。私も一応彼の上司なんだけどね。
「ね、アオヤマ君、ここではカトウ主任とかカタイ呼び方しなくていいよ。下の名前でどう?」
「下の?オ、オマ…」
「コラ!」
だいぶ酔ってきたみたい。
「じゃ、キョウコ…。」
「ユウイチ…。」
うーむ。
「それはちょっとフレンドリー過ぎるかも。私はユウイチ君て呼ぼうかな。」
「それでは僕は、キョウコさんで?」
「うん、それでいこう。」
1940年代ハリウッドスターの代表曲を集めたレコードをかけ、照明を少し落とした。
「あの、キョウコさん。」
「ん?何?」
「ご迷惑をおかけしたお詫びといいますか、助けていただいたお礼といいますか…。」
キタ。でもなあ。
「いいよ。私、こうしてるだけで楽しいし。来てくれただけで十分よ。」
「そうはいきません!!」
お、おい。びっくりするじゃないか、そんな大声。DL−103がレコードの上でハネたらどうするのよ。
「キチンとスジを通させて下さい。僕を好きにするという条件でキョウコさんは助けて下さいました。だから、今度は僕が約束を果たす番です。」
カタイなあ、この子。でも、そこがまた可愛い!それに、カタイのは性格だけじゃなかったりして。
断るのもなんだか失礼な気がしてきた。せっかくだからいただこう。その方が彼もスッキリするだろう。
「分かった。それじゃあ、シャワーを使って。」
「は、はい。」
さすがに緊張するか。上司の、しかも女の部屋でシャワーなんて。それに、この後…。
「タオルと着替え、置いといたから。たいしたものじゃないけど。」
最初からこうなることを期待していたみたいだな、着替え用意してるなんて。いや、こうなるために部屋に呼んだんだけど。
バスルームの方から細かい水滴が降り注ぐ音が聞こえ始めた。それはユウイチ君の素肌に当たって弾けて流れ落ちてるんだなあ。
なんだかこの感じ、久しぶりだ。そういえば、最後に自分の中指以外とエッチしたの、いつだっけ。
…。
まあ、いっか。だってもうすぐ。
水の音が止まった。続いて、タオルでパタパタ体を拭いている気配が伝わってくる。それが終わると私が用意した着替えを身に着ける衣擦れが。
カタン。
バスルームのドアが開いた。
「シャワー、いただきました。」
「シャワー、いただかれました。」
まだ髪の乾いていない、さっきまでよりワイルドなユウイチ君を見て、私はなんだかヘンな返事をしてしまった。
「いただかれ?」
「い、いただかれてくれるのよね、この後私に。」
なに言ってるんだ、私は。顔がカーっと熱くなってしまった。熱くなったのは顔だけではないが。
「はい。僕をキョウコさんの好きにして下さい。」
そう言うとユウイチ君は私が用意したバスローブをパサリと床に落とした。そこには、服の上から想像していたよりもさらに逞しい男の肉体が曝されていた。そして、唯一身に着けている布の中央は、突き破りそうなぐらいボコっと膨らんでいる。
ああ、ダメだ、クラクラする。
ええい、しっかりしろキョウコ。お前はオジョウサマだろ。ん?いやまあとにかく。自分に主導権があるんだから、堂々としようではないか。
「いい覚悟ね。それじゃあ、自分でトランクスを捲ってそれを見せなさい。」
「は、はい…。」
大見得を切ったものの、本音はやっぱり恥ずかしいんだ。不安もあるだろう。だって、何をされるか分からないんだから。
ユウイチ君はトランクスのゴム部分を両手で握ったまま躊躇っている。うーん、可愛い。だからこそ苛め甲斐があるというものだ。
「どうしたの、早く捲りなさい。私の好きにされるんでしょう?出さなきゃ始まらないわよ。」
なんかちょっとキツすぎるかなあ、私。キャラ違うんだけどなあ。
何て言えば…あ。
ユウイチ君は突然トランクスを捲り降ろした。ボロリン、と飛び出したそれは、想像を超えていた。