♠泣かないで欲しい女♠-1
ドアを開けた瞬間、頭が真っ白になった。
……何で松本がいるんだよ!!
シフト希望日を書いたメモを提出しに来ただけの俺は、なるべく松本と顔を合わせないように、わざと店が混んでいる時間を狙ってきた。
それなのに。
「ごっ、ごめん!!」
とっさに謝罪の言葉を口にして、顔を見ないように下を向いた。
あー、なんてタイミング悪いんだよ。
松本に「大っ嫌い!!」のダブルコンボを食らった俺は、表面上は普段通りを装っているものの、やはりショックは隠しきれず、これ以上松本に話しかける勇気なんて到底持ち合わせていなかった。
だから、なるべくバイトでも松本と被らないようシフトもさんざん悩みに悩んでいたってのに。
考え抜いて、シフト提出期限が迫って、やっと出しにきたところでこんな密室で鉢合わせ。
ああ、またきっと松本にイヤな顔をされてしまう……。
俺自身は、松本と顔を合わせることにビビッてはいるけれど、嫌なわけではない。
だけど、松本が俺と顔を合わせるのが嫌だってのは明白だから、とうとう顔を上げることはできなかった。
「…………」
ほらな、謝ったところで松本からのレスポンスはない。
もう、さっさとシフト提出して、ここから逃げちまおう。
「あ……の、俺っ、シフト出しに来ただけだから!! すぐ帰るから! 嫌な気持ちにさせてごめん!!」
この場があまりに気まずすぎて、一方的にまくし立てるみたいに謝って、店長のデスクへと向かった。
部屋の隅に置いてあるそれはきちんと整頓されていて、パソコン脇にシフト提出用の箱が置いてある。
ティッシュボックスの上部を切り落としただけのそれに、ノートの切れ端に書いたシフト希望日(ほぼ落書きみたいなもんだ)を投げるようにぶち込んだ俺は、そのまま松本の顔も見ないで部屋を後にしようとした。