♠泣かないで欲しい女♠-7
どれぐらい時間が経っただろう。
気を張ってエントランスを注視していた俺も、さすがに疲れが見え始めていた。
アイスコーヒーで長い間粘っている俺達に、ラウンジの従業員もそろそろこちらを気にし始めている。
少し、松本を休ませようか。
グルリと見渡せば、吹き抜けの作りになったエントランスは階段を上った所にも座り心地の良さそうなソファーがあって、そこからでも受付が見えるようになっている。
そこなら、階段を降りてすぐに受付に走れる。
そう決めた俺は、松本に「場所移動しよう」と言おうとしたが、
「松本!?」
突如彼女の身体がガタガタ震え出したのだ。
「おい、大丈夫か!?」
身体を小さく縮こまらせて、爪を噛みながら、震えている松本。
そんな彼女の様子で、俺は確信したのだ。
「……来たんだな?」
答えを聞き出すのは、すごく辛かった。
首を縦に振るってことは、やはり父親の疑惑はクロだって認める事で。
彼女の動揺を目の当たりにした俺は、目の奥がジワリと痛くなった。
「あ……まのくん……」
焦点の合わなかった瞳が、俺のそれと重なる。
刹那、松本の形のいい瞳からはプクッと涙が膨らんで、こぼれ落ちた。
いつの間にか、俺は怒りで身体が震えていた。
震えた身体をエントランスに向ければ、1組の男女の姿。
ここから距離があってもわかる、男のスタイルの良さ。
長身で、脚が長くて、スーツをバッチリ着こなして。
ピンと背筋を伸ばしてカウンターで受付をする男の後ろで、スマホをいじる女。
スーツ姿だけど、スカートがやや短めで、ウエストがキュッとくびれていて、綺麗に巻いたその女は色気がここまで伝わるような、エロい雰囲気だった。
大人の美男美女、といった所か。
不適切な関係じゃなかったら、目を惹くカップルとして憧れの目で見てたかもしれない。
……だが、今の俺には嫌悪感しかねえ!!
俺はすっかり頭に血が上っていた。
ポロポロ涙をこぼして動けないでいる松本をチラリと一瞥して、1つ頷いて見せると、俺はフロントにまっしぐらに走り出していた。