♠泣かないで欲しい女♠-3
◇
わからない問題が解けたり、物事を得心した時は大体スッキリするもんだ。
だけど、俺は松本が時々寂しそうな顔をする本当の理由を知った時は、スッキリどころか怒りが込み上げてくるばかりだった。
無言で俺の後ろをついてくる松本の足取りはどこか重いような気がして。
時々鼻をすする音が背後から聞こえれば、勝手に舌打ちが漏れた。
そんな状態のまま、俺達は目的地へ向かう。
松本の父親と不倫相手が今夜、逢瀬に使う場所。スプレンディード・ガーデン・ホテルへと。
◇
「うはー、すげぇホテル……」
電車を乗り継ぎ、目的の駅に着いて、地上に出た所で目の前に巨大な建物がそびえ立っていた。
首を思いっきり上に向けないと、屋上なんてわからないほどの高さ。
アイボリーを基調としたこの建物は、周りのビル群の中でもひときわスタイリッシュで、高級感が漂っていて、さすが一流ホテルと言わざるを得ないほどの風格があった。
そんな一流ホテルに乗り込もうとしている、めっちゃ普段着の俺とエプロンを外しただけのスウィングの制服姿の松本。
まるでレベルが全然足りない勇者が無謀に魔王の城に立ち向かうようだった。
……すげぇ気後れしちゃうなあ。
エントランスを遠目に眺めつつ、生唾を飲み込んでいると、
「……天野くん、やっぱいいよ」
と、背後から松本がボソッと呟いた。
ゆっくり振り返れば、俯いたままの彼女。
顔色も青白くて、そんな姿を見てると俺の胸がチクリと痛くなると同時にますます怒りが込み上げてくる。
松本を、こんなにも苦しめやがって……。
知らず知らずに、俺は拳をギュッと握って、奥歯をギリリと噛み締めていた。