第七話:母親交換-1
あれから二週間が過ぎました・・・
初めの一週間は、ほとんど毎日家に来ていた鬼塚先輩も、家に来る事も無く、私は母が言って居たように、鬼塚先輩は母の身体に飽きたんだろうと、少し暗い気持ちが晴れて来ました。ですが、解放された筈の母の表情は優れませんでした。食事をしていても、話し掛けても、どこか上の空のように見えました。
「お母さん、行って来るね!」
「そう・・・・・」
私が学校に行こうと普段通り声を掛けても、行ってらっしゃいの声も掛かりませんでした。
この二週間で、学校での私の交友も変わりました。あの事件以来、健二は鬼塚先輩のグループに加入し、髪も金髪に染めて私とは疎遠になり、逆に私は中野と親しくなりました。この日は、放課後中野の家に遊びに行く事になっており、私は中野の母との再会出来る喜びと共に、歓迎されるだろうかという不安もありました。そんな不安な気持ちを胡麻化すように、私は中野に話しかけ、
「なあ、もうおばさんいくらか元気になったの?」
「ウ〜ン、時々考え込むような事もあるけど、もうほとんど何時も通りって感じかな?普通に家事もしてるしね」
中野の言葉は聞き、私はいくらか罪悪感から解放されたような気持になりました。中野の家は住宅街にあり、見た感じ車庫付きで三階建ての立派な建物でした。中に入ると、中野の母である孝子さんが玄関先まで出て来ましたが、私の顔を見ると驚いた表情をしました。ですが、子供の前で動揺を隠そうとするかのように、平静を取り繕い、
「正、お帰りなさい・・・お友達を連れて来たのね」
「ああ、こいつは同じクラスの前田」
中野に紹介された私は、ちょっと孝子さんをからかいたくなり、
「前田です。この前はどうも」
私がそう挨拶すると、中野はキョトンとしながら私と孝子さんの顔を見比べ、孝子さんはあの日を思い出したのか、見る見る顔を赤くして動揺しだしました。中野は首を傾げ、
「康一、お前、家の母さんと会った事あるの?」
「ほら、授業参観の時、家のおふくろ迎えに行ったら、おばさんも居たから」
「ああ、成程なぁ・・・そう言えば前田の母ちゃんが、母さんの具合が悪そうだからって心配してくれてたってさ」
「エッ!?そ、そう・・・もう大丈夫だから・・・さあ、上がって」
孝子さんは、動揺を隠すように、私を家の中へと招いてくれましたが、少し恨めしそうな視線で私を見て、思わず私は舌を出しました。
中野の部屋に通された私は、中野の部屋が居心地良く感じました。というのも、中野も私同様アニメが好きなようで、部屋のポスターには、好きなアニメキャラが貼ってあり、その作品の事で盛り上がりました。
「いやぁ、童貞捨てるなら、マリちゃんみたいな可愛いキャラが良いなぁ・・・お前は?」
「俺!?俺はこの前童貞捨てたし・・・」
「エェェェェ!?だ、誰と?」
(し、しまったぁぁぁ!?)
中野は、ポスターのキャラを見ながらそう呟いて私に問いかけ、私は思わず童貞を捨てた事を、つい口走ってしまいました。中野は、相手が誰かと執拗に聞いてきて、私は大いに動揺しました。そこに、ジュースとお菓子を持って孝子さんがやって来ましたが、中野は孝子さんが来た事に気づかず、尚も私に食い下がり、
「良いじゃん、教えろよ!お前、誰とエッチして童貞捨てたの?」
その瞬間、持っていたお盆を落とした孝子さんが、呆然としながら立ち尽くし、中野はヤバイといった表情で、話を胡麻化しました。孝子さんは、動揺しながらも落としたジュースやお菓子を片付け、私は慌てて手伝いました。孝子さんは、私の顔を見ないようにしながら、
「あ、ありがとう・・・」
「す、すいません。変な話ししちゃってぇ・・・聞こえちゃいました?」
「い、いえ・・・あ、新しいのを入れ直して来ますから」
孝子さんは、この場に何て恥ずかしくて居られないといった表情で、慌てて部屋を飛び出し、私は中野にちょっと片付け手伝って来ると言って部屋を出ました。台所に行くと、孝子さんは恨めしそうな視線で私を見つめ、
「ど、どういうつもり!?」
「ゴ、ゴメンなさい・・・つい口を滑らせて・・・」
「もう・・・正にバレたらどうするの?」
「孝子さん・・・怒った?」
孝子さんは、私に名前を呼ばれた事でまた驚き、
「エッ!?何時私の名前まで知ったの!?もう、正に聞かれたら不味いから止めて」
「俺・・・バレても良い・・・孝子さんの事好きだから」
「な、な、何を言っているの!?」
私が孝子さんの事を好きだと告げると、孝子さんは激しく動揺し、私から視線を外しました。