♠刺激的な女♠-1
悲鳴……。
タクシーの料金メーターにハラハラしながらたどり着いた美容院“blue tears”は、思っていたよりも小さな店構えだった。
住宅街の中にひっそりと佇むその店は、寝静まった街の中で未だ煌々と光を放っていた(もちろんカーテンは閉め切っていたが)。
そんな中、聞こえてきた女の悲鳴にブワッと鳥肌が立つ。
あれは間違いなく松本の悲鳴だ……!
ツウ、とこめかみに流れる一筋の汗。唾を飲み込む音がやけに響く。
小野寺くんとあの胡散臭い男。
その二人に飛び掛かられたら、小柄な松本はなす術もないはずだ。
想像したくもないのに、いやな想像が勝手に脳内を駆け巡る。
松本の泣き叫ぶ顔。絹を裂くような悲鳴。それを嘲笑う男ども……。
想像したくなんてないのに、ドラマや映画なんかでヒロインが悪党に襲われるシーンが勝手に松本の姿とダブらせて脳裏によぎってしまう。
ギリッと奥歯を噛み締めた俺は、そんな想像を振り払うように、ブンブンと頭を横に振ってから店に向かって走り出した。
今、助けるぞ松本!!
◇
閉店時間はとっくに過ぎていたので、自動ドアはもちろん開かなかった。
音を立てないように手動で開けたドアには、俺の汗ばんだ手形がクッキリ。
物音を立てないように店に入れば、ツーンとパーマ液の匂いが鼻についた。
ゴクッとまた唾を飲んで中の様子を窺えば、怒鳴るような男の声が店の中に響き、思わず身体がビクッと強張る。
「手間取らせんな、コラァッ!」
「やだってば、やめてくださいっ!」
「ここまで来たらもういいだろうがっ! ほら、そのスカートも邪魔くせえから脱げっ!!」
「いやあっ!!」
これ、マジでヤベえじゃねえか!
さっきのいやな予感が再びよみがえってしまい、背中に冷たい汗が流れてくる。