♥なかなか素敵な男♥-1
「でぇ、コンテストはこんな感じで行こうと思うんだけどぉ……」
営業終了した静かな美容室。
鏡の前に座っているあたしに、天童さんがファイルを持って近寄ってきた。
低い声なのに、どこか媚びるような間延びした口調。
それは明らかに女なら気付く、ちょっと甘えたもの。
……やっぱり、本物だったんだ。
小野寺くんが言ってた、“僕とおんなじ”って意味を噛み締めながら天童さんをジィッと見ると、癖なのか拳を作って口元に持っていく彼。
その仕草がやけに女っぽくて、アンバランスだ。
見た目だけで言ったら、ホントカッコイイのに。
ワイルドなヒゲに、逞ましく筋肉がついたいい身体。
同世代にはない大人な男ってこういう人のことを言うんだって、惚れ惚れと溜息が出ちゃう。
……そう、見た目だけは。
「あー、そうそう。里穂ちゃん、お腹空いてない? アタシ、アップルパイ作っといたの。せっかくだから、食べながら打ち合わせしましょ」
そんなワイルドなイケメンが、嬉しそうにあたしにウインクする姿はどうしても違和感たっぷりだ。
小野寺くんといい、この人といい、美意識が高い人って、乙女化する傾向があるんだろうか。
「あ……、お腹そんなに空いてないんで……」
あたしが断ろうとすると、すかさず側に立っていた小野寺くんが大きな声を出す。
「えー、もったいない! 吾郎さんの作るお菓子ってプロ級なんだよ! パティシエでも絶対食べていけるほどなんだから!」
「やだ、天慈くんってば、おだててもアップルパイ以外は出ないわよ」
「だって本当の事だもん。ね、吾郎さん。今度アップルパイの作り方教えて? 僕が作るとなんかイマイチで……」
「うん、いいよ。こないだリンゴたくさん頂いちゃったから、分けてあげる! リンゴくれたお客さんのご実家がリンゴ農園で、テレビで取材されたこともある、すっごい評判のリンゴなんだってぇ。そのお客さん、まだ訛りが抜け切れてなくて、そんなのもチャーミングなんだけどぉ……」
「あー、わかる。方言って素敵だよね! 僕はこないだ兄の家族と旅行したとき……」
……こうやって、話が脱線しまくる所も女子そのものだ。