月明かりの夜に〜彼女たちの秘密〜-3
どくん、と心臓が跳ね上がる。
あのとき。
真由は、してみたい、と返した。
普通じゃない、特別なこと。
そうしたら、真由の両手を握って莉乃は真正面に立った。
すごく真剣な表情で。
莉乃の顔が、ゆっくりと近づいてきた。
何もかも、はっきりと覚えている。
つるりとした白い肌の質感、長い睫毛にふちどられた大きな瞳。
桃色の唇が、そっと頬につけられたことも。
ためらうように、二度。
少しくすぐったかったけれど、嫌ではなかった。
特別なことをしている。
そんな実感があった。
頬にキスをされた後、真由は自分から莉乃の唇に口づけた。
そうするのが自然に思えたから。
温かくて、柔らかくて。
ふたりの体が、ひとつに溶け合っていくような感じがした。
なんだか、離れたくなくなった。
一度だけのつもりだったのに。
莉乃の両手を握りしめたまま、何度も、何度も。
軽く触れ合うだけだったキスが、濃密なものに変わっていく。
小さく開いた唇の隙間に、莉乃が舌先を差し入れてきた。
何かを試すように、おそるおそる、ゆっくりと。
心が震えた。
真由はそれを受け入れ、自分の舌を絡めた。
互いの唾液を分け合う口づけは、うっとりするほど甘い快感を連れてきた。
少しも嫌だなんて思わなかったのに、なぜか悪いことをしているような気持ちになった。
どのくらいそうしていたのか覚えていない。
珍しく莉乃は泣いていた。
真由も泣いていた。
『大好き、真由のこと、ずっと好きだった』
涙交じりの声が聞こえた。
真由は『わたしも』と返した。
だけど、それ以上どうすればいいのかわからなかった。
ふたりともまだ子供だった。
その夜のことは誰にも話したことがない。
ふたりの間で話題にしたこともないし、触れてはいけないことのような気がしていた。
口に出してしまうと、大切なものが壊れてしまいそうで怖かった。
その後。
初めての彼氏ができてキスをされたときも、処女を失ったときにも、あの夜ほど心が震える経験はできなかった。
あれは、あの時間、あの場所で、莉乃が相手だったから感じられたことなのかもしれない。
だけどそれは考えることすら許されないことのように思えて、ずっと記憶の奥底に閉じ込めていた。