片想い-1
「圭(けい)兄ぃ!早く起きてよ!」
朝から美郷(みさと)の怒鳴り声が響いていた。
「何してるのよ!尊(たける)兄はもう準備を終えてるわよ!」
美郷が階段のしたから二階に向かって叫んでいた。
「ったくッ!圭兄はいつまでたってもこうなんだから・・・・尊兄の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわ!」
美郷がブツブツ文句を言いながらキッチンの食卓に座った。
「毎日部活で疲れているんだろ?」
尊が言うと
「尊兄は圭兄に甘いんだから・・・・もっときつく言ってあげないと!」
「朝から怒っていると可愛い顔がだいなしだぞ!」
「そんなの妹に言う言葉じゃないでしょ!彼女に言う言葉でしょ!」
「まぁそう言うなよ!僕だってその気がないわけじゃないんたが・・・・こればかりは僕の一存で決めれる訳じゃないからな!それこそ圭の爪の垢でももらおうかな!」
「やめてよね!これ以上手のかかる兄は要らないわ!」
美郷が頬を膨らませた時に圭が顔を出した。
「ふわぁ〜、何朝からもめてるの?」
呑気な圭の声がした。
「誰のせいで怒っていると思っているのよ!」
美郷は怒鳴りながら立ち上がった。
「何怒っているんだよ!アノ日か?」
「違うわよ!バカ!」
美郷は持っていたマグカップを圭に投げつけてキッチンを出て行った。
「何怒っているんだろ・・・・兄貴知ってる?」
圭は美郷が投げたマグカップをテーブルに置き尊に聞いてきた。
「お前が起きてくるのが遅いからだろ?」
「そんなのいつもの事だろ?」
「その態度に腹をたてているんだろ?」
「ふう〜ん・・・・」
圭は他人事のように返事をしていた。
「二人とも余裕ね?時間はいいの?」
美郷の冷めたような声に時計を見ると、ギリギリの時間だった。
「ヤバッ!」
尊達は慌てて外に出た。
「兄貴!何もたもたしてるんだよ!」
「うっ五月蝿い・・・・こ・・・これでも・・・・全力で・・・・」
尊が息を切らしながら言うと
「尊兄も圭兄を見習って少しは運動したら?」
美郷が呆れたように言うと
「うっ五月蝿い・・・・人には向き・・・・不向き・・・・が・・・・あってだな・・・・」
「そんなんじや女の子にモテないわよ!」
「五月蝿い!放っておいてくれ!」
美郷は笑いながら
「ハイハイ!それじゃあたしはこっちだから!」
美郷は角を右に曲がって行った。尊達三人は大学の附属の学校に通っている。美郷は中等部の三年で、尊と圭は高等部の一年である。
「じゃあな!兄貴!」
圭はそう言って隣の教室に入って行った。
尊が席に座ると後ろのクラスメートが
「今日も美郷ちゃんと一緒に登校か?羨ましいヤツめ!」
そう言いながら身を乗り出してきた。
「何で?」
「お、お前・・・・自分のおかれている立場を理解してないのか?中等部の三崎(みさき)美郷って言えば高等部や大学を含めてのアイドルなんだぞ!お前はそんな美郷ちゃんのあんな姿やこんな姿を・・・・」
しまりのない顔を見ていると、こいつが何を想像しているのかわかってしまった。
「しかもお前は美郷ちゃんが風呂に入った後のお湯を飲んだり、風呂の椅子をペロペロしたりできるんだろ?」
「お、お前・・・・お姉さんが風呂に入った後でそんな事をしてたのか?」
「ば、バカな事を言うな!何で俺が姉ちゃんが風呂に入った後にそんな事をしなければならないんだよ!」
「だって・・・今、お前は・・・・」
「俺の姉ちゃんと美郷ちゃんを比べられるわけないだろ!」
「ハハハハ・・・・美郷は妹だよ!それ以下でもそれ以上でもないよ!」
確かに美郷は可愛い部類に入っているとは思う・・・・でも美郷は妹だ!美郷の事をそんな目で見た事はないと言えばウソになるが、美郷は尊にとっては妹でしかなかった・・・・
「ところでさ、今度、美郷ちゃんを誘って俺と一緒にどこか行かないか?」
「お前・・・・圭に勝てるとでも・・・・」
圭は運動神経抜群で美少年、しかも明るい性格で圭の回りには自然と人が集まって来ていた。美郷と同じく全学部の女生徒のアイドルだった。実は、尊と圭は双子の兄弟ではなく、尊や美郷とは血が繋がっていなかった。。尊と美郷の父親と圭の母親とが再婚して家族になったのである。それは、三年前の事だった。だから、みんな知っている事だった。圭と美郷はお似合いのカップル、二人が好き合っているとの噂も広がっていた。
「美郷はいいわね!圭先輩といつも一緒にいられて・・・・」
美郷が教室に入るとクラスメートが話しかけてきた。
「そうかな?あたしは別にそう思わないけどな・・・・世話ばかりかかって・・・・尊兄の方がよっぽどいいわよ・・・・」
「またまたぁ・・・・照れなくてもいいわよ!あんた達が好き合っているのはわかっているんだからさ!」
「だから!違うって何度言ったらわかってくれるのよ!」
「ハイハイ、そう言う事にしておきましょうね!」
そう言いながら彼女は自分の席に戻って行った。
(本当に違うんだけどなぁ・・・・)
美郷はそう思いながらホッとしていた。
「美郷!これからカラオケに行かない?」
放課後、そう友達に誘われた。
「ゴメン、今日はスーパーの特売日なの!」
「美郷・・・・そんな事言ってたらだんだん所帯じみていっちゃうわよ!」
「仕方ないわよ!お父さんもお母さんも仕事だし・・・・尊兄や圭兄に任せるととんでもないことになっちゃうから・・・・また今度誘ってね!」
美郷はそう言って友達と別れた。