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『夏・6ヵ月』〜彼〜
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『夏・6ヵ月』〜彼〜-1

夏の始まりは
二人の出会いを祝福しているようだ。
そう
今思いだしても。
突然の出会いがおれの夏を変えよった。


6月2日。
目覚ましの音に頭痛がする。
カズは会社に行く身仕度をした。
今日は会議があって朝から、気持ちが沈んだままだった。
いつもの駅に向かう。
入社2年めで、毎日失敗の連続だった。
微かな自信も砕けそうな毎日の中を今日も泳ぎ抜かなくてはならない。
カズは定期を出して改札を通る。
ふと一人の女の子が目に飛び込んできた。
待合室のベンチで泣いていた。
声をかけようか戸惑ったが
出発のベルが彼の脚をホームに向かわした。
「あの子どうしたんだろ?」
電車に揺られている間も考えていた。
しかし、現実が彼から彼女を薄れさせていった。

会社に着くといつもの重い空気。
軽いあいさつを交わして席に着く。
自分に合わないと感じながらも辞める決心がつかないでいた。
「それではミーティングをはじめる。」
重い空気に耐えて会議が進む。
時間の経過が重い。
意識すればするほど長く感じた。

8時、仕事を終えて帰路に着く。
電車に揺られいつもの駅に降りた。
改札を通り、朝のベンチに目をやった。
やっぱ帰ったかぁ。
朝の彼女の姿はもうなかった。
階段を降りて、駐車場に向かう。
最後の段に腰を降ろして朝の彼女はたたずんでいた。
「君、朝泣いてたけどだいじょぶ?」
思わず声をかけてしまっ自分に少し後悔した。

彼女はあわてて目をこすり、警戒するかのように
「だいじょぶです」
と告げて走り去ってしまった。

これが二人の出会い。
長く切ない六ヵ月の始まりだった。


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