家政婦と躾-2
エレナの心を潰した嫌悪感を熱いシャワーで拭い去ろうとしていた。21歳のエレナには理解不可能な出来事だっただろう。犯されるエレナの瞳は恐怖に怯えていた。本能が拒否する性行為に感じる余裕はない筈だ。可愛らしいエレナの笑顔を思い出し痛む心に苦しむことしか出来なかった。それでも、近付き過ぎた距離を離す為には仕方がないことだった。
浴室からあがった脱衣室にエレナの姿は見当たらなかった。着替えを済ませ、追い炊きしたままの浴室を伝える為に、エレナの部屋をノックして姿を現わすその時を待っていた。
「何?」
「湯船、炊き直したから入ってくるといい」
「分かったわ」
扉越しにエレナは呟いて姿を現わす気配は見当たらなかった。仕方がない事だ。エレナを一人にしてあげる為に、大きな音を響かせて自分の部屋に入った事を伝えてあげていた。痛めた心を和ませる為に、音量を上げたクラシックが重低音で唸る鍵盤を響かせてくれていた。
「ちょっと音。大きいわよ」
「エレナか。驚いたよ」
「何度もノックしたのよ。全く声がしないから心配したわ」
「そうか。湯船入ったのか?」
「これから入るわ。その前に、その音量下げたほうがいいわ」
「確かにそうだな」
「ねぇ、わたしね、問題ないのよ。だから、気にしないでいいわ。問題ない。OKよ」
着替えを抱きしめて犯された事実を受け入れたエレナを見つめることしかできなかった。
「じゃぁね。お風呂入ってくる」
可愛らしく手を振って若い笑顔で僕の部屋を後にしていた。強い女の子だ。21歳で全てを許容するメンタルに心が解れる体感を感じていた。心地良いクラシックの鍵盤が痛む心を洗い流すように響き渡っていた。
音響装置と向かい合う二人掛けソファーで寝かかっていた部屋にエレナが叩く扉のノックが聞こえていた。深夜1時を回った僕の部屋はクラシックが静かに流れて真夜中の静寂を教えてくれていた。
「何かあったのか?」
扉を開けると、いつものタンクトップにホットパンツのエレナが待ち侘びたように僕を見上げていた。
「ねぇ。添い寝、してあげてもいいよ」
逆だろ。
そう言いかけたが若いエレナの精一杯の強がる笑顔に、優しく微笑んであげていた。部屋に入れてあげたエレナは大きなベッドに入って僕を見上げ嬉しそうに笑っていた。羽毛布団に包まるエレナは、新鮮な果実のようなボディクリームの香りで僕の身体に抱きついていた。大きな身体を縮こませたエレナは、幼い小顔を胸板に押し付けて安心したように身体を丸めて寝息を立て始めていた。柔らかいブロンドの髪を撫でながら今日も有難うと声を掛けて若い身体を頼るように抱き締めながら目を閉じてあげていた。