空間-1
ベージュの小さなベッド。
ここにあるのはそれだけだ。
テニスコート半面ぐらいの広さで壁に囲まれ、天井は三階分ぐらいの高さがある大きな部屋。全ての壁と天井は真っ白だ。
そんな空間にポツンと置かれたベッドは、頼りなげでありながら逆に存在感を放っている。さあおいで、と私を誘うように。
「ああ、疲れた…。」
いきなり天井に潰されたかと思ったらこんな館で目覚めた。そして正体不明の〈気配〉に胸を弄り回され…、それをキモチイイと感じて悦びの声を漏らしてしまった私は、突然灯った明かりに導かれるようにこの部屋に入った。
驚いたり泣いたり感じたり…。その全てがハイレベルだったのだから、疲れて当然だ。
「ちょっと寝てみようかな。」
部屋にしては大きすぎる空間のちょうど中央あたりに鎮座したベッドに歩み寄り、腰かけ、クルリと九十度回って膝を抱えて座った。
「うん、悪くない。ぐっすり眠れそう。こんな状況でさえなければ、ね。」
気が付くと、いつの間にか私の正面に大きな鏡が立っていた。
そこには、膝を抱えてベッドに座り、不安そうにじっと私をみつめる少女の姿があった。
お風呂上がりにタオルドライしただけの髪はまだしっとり濡れていて、適当な感じで肩にかかっている。でも、眉の高さでキチンと切り揃えている前髪はそれなりにまとまっていた。
なんの化粧もしていない顔は、そうでない時に比べると貧相な気がしなくもないけど悪くない。私は自分の顔にはそこそこの自信がある。だって男の子たちがしょっちゅうみつめてくるし、美大生の私の評価なんだから、大きくは外れていないはずだ。うん、きっとそうだ。
白い首筋から視線を下げていくと、細い鎖骨に続いて胸元がザックリ開いたTシャツへと至る。
素肌が見えているのは谷間の入り口あたりまでだけど、ブラ無しで直接着ているシャツは、その中にある膨らみの形を隠すことが出来ない。もちろん、その先端も。
「意外と大きいんだよね、体は小柄な方なのに。」
ウェストはしっかり括れている。緩いシャツだから分からないだけ、なんていうインチキじゃない。
白くて指の長い腕が膝を抱えている。指が長いのは芸術家むきだと聞いたことがある。ホントだったら嬉しいんだけど。
膝はピッタリ閉じているけど足首のあたりは少し開いている。その隙間の奥に見えているのは、パジャマ代わりのスウェットに包まれた太腿の裏側。そして。
「うーん、これって…。」
違和感がある。その部分に。それが何なのか本当は分かっていたけど、認めたくなかった。でも。
「どんな具合になってるんだろう。むりやり感じさせられちゃった後って。」
好奇心が勝った。
私はお尻を少し浮かせ、スウェットを膝の裏あたりまでスルリと捲った。
淡い水色の布に白いリボンが付いただけのシンプルなパンティが見えた。その中央部分の様子から中の状態は容易に想像がついたが、直接見てみないと本当のところは分からない。
「確認…してみよう…かな。」
私は太腿の裏側から右手を回し、パンティの淵に指を引っ掛けた。鏡に映しながらその小さな布を横に捲って中を見ようとしたその時、自分の息が荒くなっていることに気づいた。
「何?自分の体の一部を見るだけなのに、何でこんな感じになるの?あ、そういえば自分で自分のここを見たこと無かったなあ。それで?いや、それだけにしてはなんか…ヘンだ。」
指に力を込めようとした。しかし、それを止めようとする力が同じ強さで同時に働き、指は動かない。
「何やってるのよ、さっさと捲ればいいじゃない。」
思い切りが必要だったが、ようやく指は少しずつ少しずつパンティを横へと捲り始めた。
しっとり白い太腿の内側に続いて、だんだん肌の色が濃いところが見えてきた。チョロっとした物も何本か出てきた。後は丘を越えれば…。
「え!ちょ、ちょっと…。」
壁がグイーンと迫ってくる。前後左右全て同じ速度で。
「まさか!」
私は天井を見上げた。やっぱりだ。あの時と同様の無感情の精密さで降りて来る。
「また?またなの?」
床以外の全方位がぐんぐん近づいてくる。
「やめてよ、もう…。」
そう呟きながらも、私には一つの予感があった。
急いで仰向けになった。
天井はもう目の前だ。
「来た…。」
シュヒューン。