♠ピンチの女♠-8
「……俺、その店に今から行ってきます」
意を決した俺は、駿河さんから返してもらったスマホを尻ポケットにしまい、そう言った。
「天野くん……」
古川さんが心配そうにこちらを見るので、大丈夫だという意味で一つ頷いてみる。
「何もなきゃ、それでいいんです。……でも、もし松本が危ない目に合ってたら、助けに行かなかったこと、俺は絶対後悔すると思います」
「なあ、オレ達も一緒に行くぞ? お前一人だともし何かあったら……」
駿河さんの言葉を最後まで聞かず、俺は首を横に振る。
「お気持ちだけ受け取っておきます。それに古川さんまで危ない目に合わせるわけにいかないでしょ? だからお二人はいつも通りこのまま一緒に帰って下さい。今なら最終に間に合うんで」
俺に言われて初めて駿河さんが腕時計に視線を移した。
「天野くん、そのお店の場所は知ってるの?」
「ええ、ここからは遠いけど、タクシー使えばなんとか」
古川さん達が乗る下り方面の電車は、まだ最終までに時間があるけど、俺が乗らなきゃいけなかった上り電車は既に最終が行ってしまった。
手持ちは3000円くらいあるし、多分間に合うはず。
もし間に合わなければ、少し手前で降りて走るだけだ。
そんなことを思っていると、突然駿河さんが俺の目の前に一万円札を2枚ほど出したかと思うと、黙ってそれを俺の手に握らせた。
「す、駿河さん!?」
「返すのはいつでもいい。とにかく一刻を争うなら金は持っておいた方が安心だろ? 松本を連れて逃げ出す時とか……」
「あ……」
急に顔が熱くなる。
きっと今の俺は、冷静でいたつもりだけど、どこかでパニックになっていたらしい。
とにかく目的地にたどり着くことしか考えていなかった俺は、松本を連れ出す所まで頭になかったのだ。