♠ピンチの女♠-5
◇
「……なるほど」
今までの経緯を俺が一通り話し終えると、駿河さんはフウ、と息を吐くようにそう言った。
眉間に寄せたシワと、腕組みして考え込む様子の駿河さんに、俺はペコリと頭を下げた。
「……だから、古川さんが優しい言葉を掛けてくれたのが嬉しくて、つい……」
「抱きつこうとしたってわけか?」
その難しい顔のまま、駿河さんが睨みつける視線があまりに鋭くて怖くて、思わず肩をすくめてしまう。
この人の、古川さんに対する溺愛っぷりは半端じゃねぇからなあ。
俺はそんな彼にビビりつつも、古川さんが隣で慌てて駿河さんをなだめる様子を内心羨ましく思いながら眺めていた。
駿河さんは、言わずもがな古川さんの彼氏である。
社会人で、結構なイケメンだ。
小野寺くんは中性的な美少年タイプのイケメンだけど、駿河さんはそれをもう少し男らしくさせた、それでいてあまり暑苦しくない爽やかなタイプのイケメンである。
そんな駿河さんは、カノジョである古川さんにもうベタ惚れしていて、彼女がクローズを担当する時は、大抵閉店後に合わせて迎えにくるほどだ。
おかげで、一緒に働いたことがない俺や小野寺くんとも顔見知りになってしまったってわけだ。
駿河さんの溺愛っぷりは十二分に理解していたはずなのに、古川さんに抱きつこうとしたなんて、俺はなんて恐ろしいことをしようとしてたんだと、今更ながらに身震いしてしまった。
「も、もういいじゃない、翔平。天野くん、里穂ちゃんの事で気が動転してただけなんだし」
「……小夜がそういうなら」
言いながらも、駿河さんは不満げにベンチの背もたれにドスッとその身を打ち付けるように座る。
う、うう……怖ぇよこの人。