♠ピンチの女♠-4
「よかったら話してみて? 話がわからないからなんとも言えないけど、もし里穂ちゃんが何か誤解しててああいう態度を取ってるんだとしたら、あたしが里穂ちゃんに話してみるから」
「……古川さん」
ああ、この人はなんていい人なんだろう。
仕事もできるし、面倒見もいい。
こんな俺の些細なイザコザも気に掛けてくれて、なんとか力になろうとしてくれて。
精神的に弱っている時に、古川さんの存在はあまりに優しくて……。
ゆらりと立ち上がった俺は、おもむろに古川さんに向き直った。
すでに瞳は涙で飽和状態で、古川さんの顔すら歪んで見える。
もう、涙で滲んだ瞳に映るのは、古川さんというより、聖母であった。
傷付いた俺の心を、どうか、どうか癒して下さい……!
「古川さん……」
「あ、天野くん?」
「古川さぁんっ!!」
「きゃあっ!!!」
多分、この時の俺は、松本に完膚なきまでに嫌われてしまって、頭のネジがどこかに飛んでしまったんだと思う。
ただ、人の温もりを求めていた俺は、気づけば古川さんに抱きつこうとしていたらしく、両手を上げて彼女に飛びかかる所だったのだが。
「……お前、何してんの」
突如顔面を何かが遮った。
それが、アイアンクローをかまされたということ、そしてその手の主が古川さんの彼氏である駿河翔平さんのものであることに気付くのに、数秒を要した。
「翔平……」
そんな中、古川さんのホッとしたような声だけが、夜更けの静かな街並みに響いたのであった。