♠ピンチの女♠-3
◇
「あ、小野寺くん」
気まずいムードのまま店を閉めた所で、松本が明るい声を出した。
見れば、少し離れた所から小野寺くんがこちらに向かって歩いてくる所。
そんな彼に駆け寄る松本の後ろ姿は本当に嬉しそうだ。
もう深夜に近い時間帯だというのに、彼は相変わらず爽やかで、身も心も疲れ切った俺とはえらく対照的に見えた。
「天童さんが車出してくれたんだ。向こうのパーキングで待ってるから」
「そうなの? ラッキー!」
あてつけるように声を弾ませる松本を見るのがいよいよ辛くなって、目を背ける俺と、そんな俺に何と言葉を掛ければいいのか考えあぐねている古川さん。
そんな俺達に向かって小野寺くんが、少し離れた所から頭をペコリと下げた。
「じゃあ僕達はここで失礼します」
小野寺くんにつられて、松本もニコニコしながら頭を下げる。
無論、その笑顔は古川さんに“だけ”向けたものである。
松本を引き止めたくて仕方がない俺に対しては、思いっきり憎たらしいものを見るような顔で、あっかんべーをしたかと思うと、小野寺くんの腕を組んで、プイッと踵を返したのだった。
「う……ああ……」
松本達が角を曲がった所で、俺は悔しさと悲しさで妙な呻き声を上げていた。
チクショー、何で俺の気持ちが伝わらないんだよ……!
その場に崩れ落ちるように膝をつく俺は、泣き出す一歩手前。
乾いたアスファルトのデコボコがデニム越しに膝に当たって痛い。
いや、心が痛かった。
「天野くん、里穂ちゃんと何があったの?」
ふと顔を上げれば、古川さんの心配そうな顔。
薄暗い街灯に照らされたそれは、青白く柔らかくて、俺の涙腺を優しく刺激した。