♠ピンチの女♠-2
さすがの俺も、こないだ振られてダメージを負っていた所に、「大っ嫌い!!」と言う会心の一撃を食らわされて、見事なまでの瀕死状態。
きっと俺の今のHPは黄色くなってることだろう。
そんな俺は、古川さん曰く、
「口から魂が抜け出してるみたい……」
な、状態なんだとか。
正直、これが松本以外の女の子だったらここまでショックは受けなかったと思う。
松本が性悪女と知って、もう好きじゃないつもりでいたのに、「大っ嫌い!!」と言われて、立ち直れないほどのダメージを与えられるとは。
あー、何で俺はサッサと気持ちの切り替えが出来ない奴なんだろう。
「小夜さぁん、フロア締め全部終わりましたぁ」
トイレ掃除から戻ってきた松本は、古川さんには満面の笑みを向ける……が。
「お、お疲れ」
ゴホンと咳払いを一つして、なんとか話しかけようとする俺に対しては、
「…………」
一言も発せず、露骨に不機嫌そうな顔になってはプイッとこちらに背を向ける。
なぁ、みんな想像してくれ。
好きな人に思いっきり嫌な顔されて、無視をされるシチュエーションを。
「あ、り、里穂ちゃんありがとう。こっちも片付いたし……今日は早く上がろっか」
古川さんが、無理をして明るい声を出して俺と松本を交互に見る。
うん、彼女が非常に気を遣っているのが嫌でも伝わってくる。
いつもなら、終電ギリギリまでお喋りしてしまうのに、今日に限ってはそんな提案。
俺を思いっきり嫌悪する松本と、ショックを受けて屍のようになっている俺とに挟まれた古川さんが、一番の被害者かもしれない。
気付けば時計はもうすぐ23時半をまわろうとしていて、
「それじゃ、あたしと里穂ちゃん先に着替えてくるから」
と、古川さんはそそくさとスタッフルームへと松本を連れて引っ込んでしまった。