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二つの愛に包まれて…。
【悲恋 恋愛小説】

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二つの愛に包まれて…。-2

お前の入院中に俺の両親を交え、俺達のこれからの事を話し合った。

「久美子は田舎に連れて帰ります。何年掛かるかわかりませんが社会復帰できるまでゆっくり療養させます。も…もう、久美子に辛い思いをさせたくない…!二度と…!お願いします。」

お前の父親は涙ながらにそう言った。

「明、お父さんの言われる事わかるな!」

お互いの親父の言葉に涙が溢れ出し、俺は頷くしかなかった。

お前の入院中は明るく振る舞い、そんなそぶりを見せなかった俺だが、退院の前日、俺の手を握りしめ一晩中泣いたお前。

「一緒に居たい…。明の側に…。お願い…。明…。貴方だけ愛してる…。だから…待ってる…。明…。」

泣きながら叫ぶお前の声が響き渡り、両親に抱き抱えられ故郷に帰ったお前。
人目を憚らず声を出して泣いた俺。お前は永遠の別れとは知らずに…。

お前のアパートに戻るとそこは二人が暮らした一年の証は無く、段ボールに二つ、俺の荷物が置かれていた。

「明さん。連絡先を教えて下さい。もし姉の身に何かあったら連絡します。」

俺は家の電話番号を信一に教え、お前との繋がりを残した。

一年後、信一からの電話でお前が退院した事を聞かされた。

壮絶な入院生活の話を聞き涙が止まらなかった。

毎日毎日泣きながら狂った様に俺の名前を呼び続けたお前。

成人式には出れなかったお前だが、その日から毎日毎日窓から外を見ながら俺が迎えに来る事を待っていたお前。

情緒不安定になり何度も療養所を抜け出し俺を探して山の中をさ迷ったお前。

体調と精神が安定するまでの両親や信一の苦労が胸を痛め俺は泣きじゃくった。

最後に信一はこう言った。

「姉ちゃんはある日から明さんの事を一切口にしなくなりました。原因はわからないけど記憶の一部が消えた様に…。だから、安心して下さい。姉ちゃんもう大丈夫です。もうお電話する事はありません。どうか明さんもお元気で。」

お前との繋がりが切れた悲しみより、お前が元気になってくれた事の喜びに涙が止まらなかった。

五年後、時間が掛かったが俺も社会復帰し今の妻、奈津子と知り合った。

交際を申し込んで来たのは奈津子で、奈津子には俺の過去のすべて話した。

「久美子さんの変わりにはなれないけど、貴方の側に居させて。人の痛みがわかる貴方とずっと一緒に…。久美子さんの事はいつでも思い出していいからね。」

「奈津子…有難う…。」

俺がそう言うと奈津子は俺の目から溢れ出す涙を手で掬った。

交際から結婚、子宝にも恵まれ幸せな人生を過ごし、退職後年金暮らしと月日はあっと言う間に過ぎた。

ある日、奈津子と買い物から帰ると電話器の不在着信のランプが点滅していた。

「貴方…直ぐにかけ直して!早く!」

奈津子は何かを察したのか、受話器を取りコールボタンを押した。

「明さんですよね…。信一です。覚えてますか?」

「もちろんだ!忘れる訳ないだろ!」

「姉が先日亡くなりました。そのご報告を…。もう二度と連絡する事は無いと思っていましたが…。姉が最後に口にした言葉を伝えなくてはと連絡させて頂きました。」

『明さん…有難う…。貴方と出会えて幸せでした。明さん…貴方だけ愛してる…。』

お前は最後にそう言い旦那と子供達、孫達に見送られ息を引き取ったと。

涙が止まらなかった。受話器を握りしめ奈津子の前で声を上げて泣いた。

「久美子さん貴方の事忘れてなかったのよ。よかったね。本当によかったね。」

奈津子はそんな俺を抱きしめ、泣きながら俺を包んでくれた。

その夜奈津子は俺を公園に誘った。

「今夜は二人で星を数えよう。いつもより一つ多くね。」

一つ数えるたびにお前と過ごした日々が頭を過ぎり、その数以上に涙が頬を伝い落ちた。

五年後ベッドの上で薄れる意識の中、奈津子の声が聞こえた。

「先に逝って久美子さん大事にしてあげて。私も後で逝くからね。その時は三人で仲良くしようね。貴方…有難う…。貴方…愛してる…。」

「奈津子…。有難う…。」

俺は最後の力を振り絞り言葉を発し息を引き取った。

二つの愛に包まれて…。





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