笑わない女-1
診察券と保険証を差し出した。
受付の女性が手元の書類から顔を上げ、それを受け取った。
楕円形のシンプルな銀縁メガネ、後ろで束ねた髪、何の特徴もない制服。
滑らかな白い肌の顔立ちは、美人と言って差し支えないくらいに整っている。
嫌味な派手さは無く、とても好感の持てる女性だ。
でも、笑わない。
全然笑わない。全く笑わない。俺がにこやかに挨拶しても、無表情に返してくるだけだ。
真面目に冷静に的確に。愛想笑いなどしないその雰囲気から、俺は彼女のことを”司書のおねえさん”と密かに呼んでいる。
今日の診察が終わって次回の予約を入れた。帰るときに彼女と挨拶をしたが、やっぱり無表情。毎回の事だし、けしてイヤな気分にさせる人ではないけれど、少々寂しく感じることもある。