セ-4
「大人の恋がしたいんだろ?」
「・・・・」
「どうする?駅に行くか?」
楽しそうに私の答えを待つ安達さんは
きっとオフィスラブなんか何回もしていて
新入社員の私を、大人なんかに見てくれなくて。
きっとからかっているだけなんだろう。
ハイヒールの良く似合う、パリッとしたスーツの
綺麗な女性が、背の高い安達さんにピッタリ寄り添って
同じようにくすくす笑っている図がポンと頭に浮かんだ。
対して、私はヒールの高くないパンプスに(だって楠さんがいつも急げって言うから)
よれよれのスーツに(だって山田さんがいつも残業させるから)
お化粧だって落ちかけてる(昼に化粧直ししたきりだ)
安達さんは、同じように仕事が忙しいはずなのに
しわのないスーツに酔った様子もない涼しい顔で
楽しそうに笑っている。
大人の恋なんか、し慣れたように。
たまには子どもでもからかってみるか、って感じ。
「安達さんの家で」
考えるよりも前に口から出たその言葉に
自分自身に少しだけ満足した。
「運転手さん、行き先は変更なしで」
安達さんは楽しそうにそう言ったまま、背もたれにゆっくりと沈んだ。