♥偏見を持つ男♥-4
順風満帆に見える小夜さんと駿河さんだけど、小夜さんの中に不安はいつもまとわりついていたんだ。
社会人の駿河さんには、小夜さんの知らない世界がどんどん広がっていく。
その世界には、もしかしたら駿河さんにモーションをかける綺麗な女だっているかもしれない。
そんな、想像したらキリがない不安を小夜さんは抱えている。
どんなに彼氏に愛されて幸せでも、見えない未来が相手だと、不安になる時がある。
きっと恋をすれば誰もがそんな不安を抱えてしまうんだろう。
それほど、未来と他人の気持ちに『絶対』はない、ということだ。
それでも小夜さんの不安そうな顔を見るのは忍びないので、あたしは「大丈夫ですよぉ」って彼女の肩を叩こうとした、が。
刹那、あたしの頭の中に低い男の声が響いて、その手が固まる。
ーーもう、妻はただの家族なんだ。女としてはもう見ていない。
ーー娘がいなかったら、迷わず君を選ぶのに。
「っ……!」
途端にズキっと頭が痛くなって、また苦い顔になる。
「里穂ちゃん、大丈夫!?」
「……大丈夫ですよ、ちょっと立ちくらみ」
無理に笑顔を作って、小夜さんの心配そうな視線から逃れて向けた視線の先には、小さな女の子を連れた若い夫婦がテーブル席で楽しそうにお茶をしている姿があった。
シアワセソウナカゾクーー。
途端に胸がズキッと痛くなる。
女の子は、仕事帰りとおぼしきスーツ姿のパパと一緒でとても嬉しそうだ。
パパは、結構かっこいいな。ママの方も若くてスタイルよくて綺麗だし。
フォークですくったケーキを女の子に食べさせるママの表情はとても優しそうで、絵に描いたような幸せな家族の姿がそこにあった。
ズキズキと脈打つこめかみを抑えながら、あたしはそれを眺めては、心の中で舌打ちをする。
そうやって幸せそうに笑っていたって、未来なんてどうなるかわからない。
永遠の愛なんてあるわけがないんだから。
あたしの目にはその家族連れが急に色褪せていった。