♥偏見を持つ男♥-3
そんな小夜さんが羨ましくて、何とか駿河さんを手に入れたくなったあたしは、色々モーションをかけたんだけど、結局二人の気持ちが強過ぎて、入り込む余地なんてなかった。
そんな二人は紆余曲折を経て付き合ったわけだけど、もう駿河さんのキャラが変わり過ぎて、うちらスタッフは目を疑うほどだった。
基本的にクールであまり笑顔を見せないのはわかるんだけど、小夜さんがクローズになる時は決まって閉店間際にお店に迎えに来るのがデフォルト。
それは社会人になっても変わらない。
もちろん、出張とかあって迎えに来れない時もあるんだけど、その時だってマメに電話くれたりしてるみたい。
どっちかって言ったら、ベタベタした恋愛を嫌いそうな駿河さんが、小夜さんにベッタリなのを見ると、人は見かけによらないって言葉は駿河さんの為にあるんだなあ、と思う。
でも、そんなラブラブな二人を見てると、あたしの胸の中にちょっぴり黒い感情が湧き上がるのだ。
「でも、小夜さんは不安にならないんですか?」
「何が?」
「だって、駿河さんは社会人で、色んな人と出会いがあって、加えてあのルックスでしょう? 浮気するんじゃないかとか他好きしちゃうんじゃないかって考えたこと、ないんですか?」
すると、小夜さんは小さく笑ってあたしから目を逸らせた。
「不安は、ないわけじゃないよ」
その横顔はちょっぴり寂しげで、とても綺麗で、ハッと息を呑んで見惚れてしまう。
駿河さんと付き合う前はまるで色気なんてなかった彼女だけど、今では、女のあたしから見てもドキッとするほど儚い美しさを垣間見せる時がある。
小夜さんは、そんな優しげな目元を伏せてさらに続けた。
「でも、不安がってばかりって、それってあたしを大切にしてくれてる翔平を信じてないって事なんだよね。それはすごく失礼なことだって思うから、なるべく不安は顔に出さないようにしてるんだけど、なかなか難しくて……。自分がすっごい美人だったらこんなに悩まなかったんじゃないかって密かに思っちゃう」
バツが悪そうに舌を出す小夜さん。
彼女がそんな風に考えているのは意外だった。