告白-1
航とゆかりは、二人きりになったとはいえ特別に話す事などなく、早々に床に入った。
「こうして並んで寝るの久しぶりね・・・・」
「そうだね・・・・小さい頃はこうして姉さんといつも寝ていたのにね・・・・」
「うん・・・ねぇ?私とより早苗ちゃんと一緒のほうがよかったんじゃないの?」
「えっ?どうして?」
「ん?今日の二人を見ていて・・・・なんとなくそう思ったの・・・・なんなら、今から叔母さんに言って部屋を代わってもらおうか?」
「姉さんは僕と一緒の部屋で寝るの嫌なの!」
「そうじゃないわ・・・・ただ航がそのほうがいいんじゃないかと・・・・」
「何でそう思うんだよ!」
「航・・・早苗ちゃんと一緒に川原に行ったよね?その時に告白されたんじゃない?」
「えっ・・・・」
「やっぱりそうなのね。早苗ちゃんずっと航の事が好きだったから・・・・」
「姉さん知ってたの?」
「直接聞いたわけじゃないんだけどなんとなくね・・・・」
(姉さんにとって僕はやっぱり弟でしかないんだろうな・・・・)
「で?どこまでいったの?早苗ちゃんとは?」
「姉さんとも遊びに行ってた川原だけど?」
「ううん・・・そうじゃなくて・・・・あの・・・・その・・・・男と女の関係とか・・・・」
「はぁ?なんでそうなるの?」
「だって・・・早苗ちゃん・・・帰って来た時・・・嬉しそうだったし・・・・来ていたブラウスも・・・・」
「言っておくけど、僕は早苗姉にはなにもしてないからね!」
「えっ?どうして?早苗ちゃんの事が嫌いなの?」
「好きだよ・・・・」
「だったらどうして?」
「好きにもいろいろあるだろ!僕は早苗姉の事が好きだよ・・・でもそれは女性として好きなんじゃないよ!お姉ちゃんというか・・・・家族みたいな感じで好きなんだ・・・・それに僕には好きな女性がいるから・・・・」
「えっ?そうなの?その人は私が知っている人?」
「どうでもいいだろ!」
航は布団を頭から被って、ゆかりに背を向けた。
「ねぇねぇ教えてよ!」
ゆかりは顔を航の方に向けて話かけたが航は答えてくれなかった。
(僕の好きな人って姉さんなんだよ!なんて言えるわけないだろ!)
「好きな人がいるなら会いたいわよね・・・・だとすればこの近所に住んでいる人?でも早苗ちゃんは違うのよね・・・・誰だろう・・・・あっ!もしかして向こうにいるのかな?彼女にはいつでも会えるからこっちに帰って来たのかな?それなら彼女と一緒にすごしたほうがよかったんじゃないの?」
「・・・・・」
「航?」
「・・・・・」
「なにか言ってよ!起きてるんでしょ?」
「・・・・さんだよ・・・・」
「えっ?」
「・・・・・」
「航?」
「・・・・・姉さんなんだよ!僕が好きな人は!」
航はゆかりに背を向けたまま告白した。
(言ってしまった・・・・これだけは言うつもりなんかなかったのに・・・・)
「・・・・・」
ゆかりは驚いてなにも言えなかった・・・・
(やっぱり・・・退いてるよな・・・・)
「・・・冗談だよね・・・・」
ゆかりはやっとの思いで言葉を絞り出した・・・・
「・・・・・」
「航?」
航は向き直り、布団から顔を出してゆかりを見た。
「冗談なんかじゃないよ・・・・僕は一人の女性として姉さんの事を愛しているんだ・・・・」
「航・・・・」
「やっぱり退くよね・・・・血が繋がった実の姉を好きになるなんて・・・・でも本気なんだ・・・・でも安心して・・・・別に姉さんとどうこうなりたいなんて思ってないから・・・・僕が勝手に姉さんを好きになっただけ・・・・それだけの事・・・・」
「航・・・・」
航は唇を噛んで、言うべきかどうか躊躇っていた・・・・
「・・・・姉さん・・・・最後に一つだけお願いがあるんだけど・・・・嫌なら別にムリしなくてもいいから・・・・」
航の最後にって言葉にゆかりは航の運命を予感した・・・・
「やっぱりいい・・・・」
「男らしくないなぁ・・・・ダメならダメってはっきり言うから、言うだけ言ってみなさい!」
航は何度も唾を飲み込んでいた・・・・やがて躊躇いがちに
「嫌ならはっきり言ってくれてもいいんだけど・・・・」
「なぁに?」
ゆかりは優しく微笑んだ・・・・
「姉さんの裸を見せて欲しい・・・・僕・・・・女の人の裸を見た事ないんだ・・・・だから死ぬ前に一度でもいいから見ておきたいんだ・・・・」
「裸を見たいんなら私でなくても・・・・」
実際この時代、売春は合法であり、そういう店に行けば女性を買う事が出来た。女を知らずに死ぬのは可哀想だと、そのような店に行く事を勧める上官もいた・・・
「姉さんでないとダメなんだ・・・・僕が見たいのは姉さんだけ・・・・他の女性じゃダメなんだ・・・・」
ゆかりは迷った・・・・
(航の想いは叶えてあげたい・・・・しかし・・・・)
「ムリならいいんだ・・・・忘れて今の・・・・」
航はゆかりを見つめていた・・・・
ゆかりも航から目をそらさなかった・・・・
「いいわよ・・・・」
ゆかりは体を起こし掛け布団を体の前から外した。
「姉さん!」
航は思わず起き上がった。航の目の前に一糸纏わぬゆかりの姿が現れたからだった・・・・
「姉さん・・・・」
「私の裸なんかでいいなら好きなだけ見て・・・・」
ゆかりはゆっくりと立ち上がった・・・・窓ガラスを通して月の光がゆかりの裸を照らした・・・・
「綺麗だよ・・・・神様みたいだ・・・・」
やっとの思いでそれだけの言葉を紡ぎだした・・・・