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ハッカ飴
【ボーイズ 恋愛小説】

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スペアミントガム-2

「あ」
ユリを待っているのだろう健吾を見つけて、僕はつい声を上げてしまう。

その声を聞いて、僕に背を向けていた健吾がこちらを向く。
「あ、さっき美術部に居た…。どうも」
愛想よくそう云って健吾は軽く頭を下げてくれた。

「あ、あの、一年B組の吉田良です」

相手は先輩だし、何より彼の妹に敵意めいた嫉妬を抱いてしまっている僕は、必要以上に固くなる。

そんな僕に、健吾は笑みを浮かべる。
優しい顔だった。
悪意のない、ちっとも怖くない笑顔。

「そんなに緊張しなくても良いのに。俺って、恐そうかね」

健吾はぺたぺたと自分の頬を触る。
「いえあの、そういう訳じゃ」

僕はどうにも対応が巧くない。仲良くなったら冗談も云えるけれど、ゲイという秘密を抱えている所為か余計に人との距離を取ってしまう。

けれども彼は、そんな事は気にもしていないようだった。

「そっか、恐くないか。良かった良かった」
そう云って、カラカラと快活に笑う。
「あ、そうそう。部活はもう終わったの?」
笑っていた健吾が、ふいに云った。

「ああ、僕はちょっと気分が―――」

僕が俯いて云うと、健吾は申し訳なさそうに眉をしかめた。

「え、大丈夫?引きとめてごめんな。気をつけて帰って、ゆっくり休んだ方が良いよ」

健吾は本当に心配そうに云う。
皆に優しいのだろう。僕は気分が少し晴れやかになって、そのまま別れを告げて学校を出た。

なんてことはない出会い。

それが、初夏の全て。
段々と変わって行ったのは秋からだ。

秋に、僕ら美術部はスケッチハイクに行く。土日を利用したなんて事はない旅行で、勿論強制ではない。
行くのは6割くらいで、行かなかったからといって仲間外れになる程でもないから、集団で泊まるのが嫌だとか、風呂が嫌だとか単純に用事があるとか、何だかんだと云って行かない部員も多いのだという。

僕はこの強制的でない空間が好きだ。甘いとかヌルいとでも云われそうだけど、ただ日常を暮らすだけで精神が摩耗していく僕には厳しい体育会系なんて耐えられないし、あの上の云う事は絶対だという雰囲気には馴染めない。

そういう厳しさが好きな人も居るのだろうけど、それが正しくて最上だ、みたいに云われると困る。

そんな事を考える僕は、スケッチハイクに行く事にした。

友達も行くと云うし、何より楽しそうに思えた。

スケッチハイクに行くと話していたユリも、嬉しそうに説明を聞いている。


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