第七章 傷跡-8
ドガーーーーン!
「うおっ!なんだぁ!」
「いいところですのに無粋ですわ。」
窓側の壁が突然ぶっ飛ばされ、コンクリートの破片がまき散らされた。
「ただいまですぅ。」
ロリちゃんだ!戦闘服のようなものを着て、地面に着きそうなくらい大きな銃を肩から下げている。
「ロリ!」
「おや、感動の再開だね。予想よりかなり早かったけど。」
「サユリさん、会いたかったですぅ。」
「ロリ…オマエ、ここ二階だぞ。」
「そこじゃありませんわよ、サユリさん。」
そうそう、なぜ戻って…
「ロリちゃん、何ですの、その恰好。イメチェンかしら?」
ミヤビさん、あなたも…。
「そうですぅ、私、潜入捜査官なのですぅ。」
「お、おい、ウそだろ?」
「ウソですぅ。」
「…。」
「いいからぁ、脱出ですぅ!」
「選択の余地なし、か。行くよ、アニキ!」
ヒロカちゃんとヒロキは私たちが入ってきたのとは別のドアから飛び出した。
「待って、ヒロカちゃん!」
「クソ、こっちのドア、鍵が掛かってるぞ。」
「大丈夫ですぅ。サユリさん、こっち。」
「何だあ?オマエが入って来た壁の穴…ぎゃぁあぁあー!」
サユリさんがロリちゃんに外に突き落とされた。
「あら、飛行機などに装備されている、脱出用の布の滑り台ですわね。これなら大丈夫…きゃぁあぁあー!」
下を覗き込んでいたミヤビさんが後を追った。
「さ、ラストですぅ。」
「え、私?」
「他に居ませんよぉ。」
壁の穴の方へと引きずられていく。こんな怪力だったの?ロリちゃんてば。
「待って!テツヤさんもお願い!」
ロリちゃんはため息交じりに左右に首を振った。
「…しょうがないですねぇ。」
彼女は水槽の方に銃を向け、バリバリ弾を打ち込んだ。
「ちょ、え、ええー?」
水槽は派手に壊れ、中の水と共にテツヤさんが流れ出てきた。
「大丈夫ですかぁ?先日までぇ、大変お世話になりましたぁ。」
テツヤさんはグタグタで起き上がれない。
「…さすがにキツいよ。それにしても、何でオレまで助けるんだ?」
「えへへぇ、すごくヨかったからですよぉ。」
そう言いながらズリズリとテツヤさんを引きずり、壁の穴からポイ、っと外に投げた。
「うぉおぉぉー!」
テツヤさんも叫びながら落ちていった。
ズゴォオォオォォォン!
重い大きな音と共に激しく部屋が揺れた。思わずよろめいてしまった。
「な、何なの?」
「爆破が始まったですぅ。証拠隠滅の。ここもそろそろぉ。」
問答無用で壁から投げ落とされた
「ひゃあぁあうふぅふうぅうぅん…。」
ヘンな声が出てしまった。
私が地上に居た戦闘服のお兄さんたちに抱きとめられるのとほぼ同時に、ロリちゃんが地上にスタ、っと降り立った。
「フローレンス特務隊長殿、お怪我はありませんか?」
「あると思うか。」
「はっ!失礼しました!」
「被害者三名及び容疑者一名を確保した。後を頼む。」
「了解いたしました!」
戦闘服のお姉さんたちが私たちに毛布を掛け、こちらへ、っと車の方へ誘導した。
「残りの容疑者を追うぞ。ナカガワ、マツノシタ、ニシヤマ、ついて来い!」
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
その時、私たちとロリちゃんの目が合った。
「さぁみんなぁ、悪い人たちぃ、捕まえに行くですぅ。」
「はあ?あ、あの、隊長…」
「少しふざけただけだ。忘れろ。」
「はあ…。」
ロリちゃんはウィンクを残して風のように走り去った。私達三人は走っている車の中から、ついさっきまで毎日を過ごしてきた建物が、激しい炎に包まれ、崩れ落ちていく様を無言で眺めていた。
丘を一つ越えると、立ち上る煙だけがかつてそこに施設があったという痕跡を示していた。
サユリさんが呟いた。
「なんか、寂しいな…」
ミヤビさんはそれには答えず、髪をいじっている。
私は床を見つめ、荒れた路面に揺られていた。