第七章 傷跡-3
私には一つの恐ろしい答えが浮かんだ。それは考えたくもないものだった。でも、問わずにはいられない。
「ハーブチキンのようなもの、なの?」
「なんだそりゃ?」
「美味しいチキンを食べるためには、美味しい餌を与えて育てるということですわ。」
私は身震いした。
「人格は壊されていない、無垢な少女。だから、弄ばれ、非道い扱いを受けることに、羞恥、恐怖、屈辱を抱くが、カラダの奥底ではジンジンと痺れにも似た欲情が目覚めていく。やがてそれは抑える事の出来ない快感への渇望となって理性をねじ伏せ、濁流のような倒錯が悦楽を求めて乱れ狂う。そういうオンナを育てる場所なんだ。」
「バカな。人格を保っているのに倒錯した欲望を持ったオンナを作り出すなんて、そんな事…」
「そう?自分で言っていたじゃないか。物理的には逃げだせる。でも、逃げられない、って。」
「いや、それは…。」
「もうカラダに刻み付けられてしまったからだろう?ここでされることへの悦びを。」
「う…いや…。」
「そうかも知れませんわね。」
「おい、ミヤビ!」
「だって、ここから出たらまた退屈な毎日に戻ってしまうだけですわ。それに、正直に言いますけれど、確かに私のカラダはもう、ここで与えられる快楽を忘れられなくなっておりますもの。」
「へえ、ホントに正直だね。正直と言えば、君も随分自分の欲求に正直だったね。」
ヒロカちゃんは私を指さした。
「え、私?」
「ここで目覚めたあと、乱暴に露出させられた乳房を激しく叩かれて、かなり痛い思いをしたよね。それなのに、その痛みに何かを感じてしまったんだろ?だってその後、お風呂で何をした?」
「え?あの時、私は傷ついた自分のカラダを慰めようと…。」
「したよね、自分で。胸を撫でていたはずの指が下へと進んで茂みに入り込み、指の動きは激しさを増していった。立っていることも辛くなり、壁にもたれて座り、さらに弄り続け、しまいには腰までくねらせて想いを果たした。」
「おい、ちょっと待て。監視カメラは無いって聞いたぞ。」
「無いよ。観察用のカメラならあるけどね。成長具合を確認するための。」
彼女は言葉で誤魔化そうとしているのではない。本当に観察していただけのつもりなのだ。
「続いて君は、腕を折るぞ、首を絞めて殺すぞと脅され、自分から両足を開いて全てを見せたよね。見られたくない、恥ずかしい、と思う一方で、見られてしまいたいという倒錯した興奮をおぼえていたんじゃない?その証拠に、我を忘れて見せつけたじゃないの、自分で弄りまわしている所を。」
「違う…違うよ、殺されるかもしれないという恐怖で…。」
「まあ、引き金はそうだったんだろうね。そして…」
「やめて!もうやめて、ヒロカちゃん!」
「私たちは全て知っているの。そして、そこにいる二人も同じような事をされてきたんだ。何も恥ずかしがることなんかないよ。」
サユリさんとミヤビさんが両側から強く手を握ってくれた。あなたは一人ではない、っと。
「君の倒錯をハッキリ確信したのはあの時だよ。どうせ脱がされる、とか言いながら自分で脱いでいったよね。その時、君はついに自覚したんだよ、その後、自分に対して行われるであろう事を考えただけで興奮し、疼いてしまっているということを。カラダにも変化が起こっていたんじゃないの?太ももと下着の隙間からオンナの潤いが滴り落ちそうになってしまうぐらいに。」
私は何も言い返せなかった。自分はそんなはしたない女じゃない、っと思い込もうとしてきたが、快感を貪ろうとする欲求を抑えきれなくなっていく自分を徐々に否定出来なくなっていったのだから。
「その後、君たちはリビングという開かれた空間でオンナだけであんなことをしたよね。なかなかの見ものだったよ。」
「ちょっといいかしら。」
「何だい?」
「商品に手を付けたとさっきおっしゃったけど、わたくしたち、ここに来てから既にそういう事をさんざんされてきましたわ。」
「それは違うんだよ。決定的な違いがある。」
「愛があるかないか、かしら。」
「そんなのはどうでもいいんだ。あのね、お客さんからのオーダーで必ず指定される絶対条件は何だと思う?」
「うーん、見た目が可愛い?」
「可愛いは人それぞれだよ。」
「綺麗なカラダかしら?」
「自分で言うか、それ。それに、体つきの好みも千差万別さ。」
「では、何ですの?。」
「処女であること、だよ。」
「はあ?何か矛盾してないか、性の悦びを教えるとか言っといて、何で処女なんだよ。」
「ピンと来ないかもしれないけど、オトコにとってそれは極めて重要なんだよ。だから、テツヤのしたことは、この事業を根底から覆してくれた。君をオーダーしたお客さんは激怒している。」
「え…それが私を誘拐させた人物なんですね?どこの誰なんですか?どんな人ですか?」
ふぅ、っと彼女はため息をついた。
「君って、ホントに鈍いんだね。いつまでたっても。涙も出ないよ。」