第二章 恐怖が足を-1
「随分お寝坊さんだね。
テツヤの声で起こされた。窓を見上げると、温かい日差しが眩しい。
「何時ですか。」
「自分で時間が分かるって言ってたじゃないか。」
お風呂をあがって眠る前は薄暗くなっていた。とすると朝なのか?いや、それにしては光の向きがおかしい。まさか夕方?
「どうした、逆に教えてくれよ、今何時だい?」
「…。」
「まあどうでもいいさ。君には関係ない。さて。」
振り返った先にはヒロキが椅子を持って立っている。私は本能的に不吉なものを感じ、身を固くした。
「プレゼントだよ。座り心地最高さ。さあ、座って。」
ヒロキが椅子を床に置いた。それは、到底まともな用途に使われるとは思えないものだった。座面はU字型の便座の前後を短くしたような形をしており、なんとかお尻だけ乗せられるぐらいの奥行しかない。背もたれは幅十センチほどと狭く、高さは私の肩甲骨あたりまでだ。
「どうしたの?椅子は座るためのものだよ。せっかくのプレゼントなんだから、座ってみてよ。」
「この椅子、何なんですか。普通のではないですよね。」
テツヤはにこやかな笑顔で答えた。
「そうさ!特別にデザインした、特別な椅子さ。特別な人にしか座らせない。つまり君は特別なのさ。」
何かされるに決まっているが、座るしかなさそうだ。私は注意深くテツヤとヒロキの様子を伺いながら、浅く座った。
「ずり落ちるよ、それじゃ。」
確かに。私はもう少ししっかりと背中を付けて座りなおした。
「うん、似合ってるよ。でも、もっと似合うようにしようか。さ、服を脱いで。」
やっぱりか。夕べクローゼットから選び抜いた、憧れのブランド服のボタンを外していった。
「おや、素直じゃないか。自分から脱ぐなんて。」
「どうせ脱がすんでしょう?力ずくででも。それじゃあせっかくの素敵な服が傷んでしまいますからね。」
嫌味でも言わないと気が済まない。いや、本当は恐怖でおかしくなりそうな自分をしっかりさせるためだ。
上着を脱ぐと、上半身はブラだけになった。テツヤは、当然それも取るよね、という顔で見ている。こんな人たちに自分から胸を見せるなんて…ありえないことだが、今の私には他の選択肢はない。恥ずかしくてたまらなかったが、出来るだけ何でもない様に装い、ブラを取って胸を見せてやった。
「いいねえ。素直な子は好きだよ。例えそれが演技だとしても。」
バレている。しかし、今更隠すことも出来ない。
「え?」
テツヤに胸を見られていることに気を取られていた私のウェストに、後ろからベルトのようなものが巻きつけられた。
「安全ベルトだよ。ずり落ちそうだからね。」
「それが分かっていて、何でこういう形の椅子なんですか。」
「すぐに分かるよ。その前に、スカートも脱ぎなさい。」
もう演技は通じない。どうしよう。
「脱がないの?じゃ、脱がしてあげようか。」
「結構です。自分で脱ぎます。」
せめてもの反抗だ。ためらいと闘いながら、腰を浮かせてスカートを膝まで下ろし、手を放した。それは音もなく床に落ちた。
「靴下も。」
ウェストを縛られているのであまりかがむことが出来ない。左膝を抱え上げ、靴下を脱いだ。その時、テツヤの視線が私の足の付け根に集中していることに気づいた。そのために靴下を脱がせたのか。慌てて足を下した。
「どうした、右も脱ぎなさい。」
「むこう向いててもらえませんか。」
「バレたか。いいよ、そのくらい望みを聞いてあげよう。」
テツヤが視線を外している隙に手早く右の靴下も脱いだ。
「もーいーかーい?」
鬼ごっこのつもりか。もちろん相手なんかするつもりはない。
「ノリ悪いね。さて、これで君はショーツ一枚しか身に着けていない姿になったね。」
そんな挑発に乗ってカラダを隠そうとなんかしてやるものか。私は胸を張って真っ直ぐにテツオを睨んだ。
「いいねえ。もっと胸を突き出して見せてくれよ。プリっとハリのあるある膨らみ、ツンと上を向いた先端。素敵だよ。」
私は体が震えてしまうのをこらえ、胸を張り続けた。そのため、背後の気配に気づくのが遅れた。