♠狙われた女♠-12
「天野くんが? あたしを?」
「ったりめーだ! 俺だってなあ、いっぱしの男だからな、いつだってお前を襲うことなんて簡単にできるんだよ!」
そうやって、俺の恐ろしさをわからせてやるつもりだった(もちろん襲うってのは冗談だけど)、が。
「雄也……そんな怖いこと言わないで……。あたし、乱暴なのはイヤなの……。だから、優しくして?」
と、急に色っぽい視線をこちらに向けるもんだから、顔が湯気が出たみたいに瞬時に熱くなった。
か、か、可愛過ぎるだろ……!!
めちゃくちゃ動揺してしまった俺は、松本と反対の方向を向いて、この真っ赤になってしまった顔をバレないようにした。
「あ、また顔が赤い」
「赤くねー!!」
……ちくしょう、やっぱり俺はこの女に勝てそうにない。
◇
「ブレンド」
そんなやり取りをして間もない頃、一人の客が俺達の目の前に現れた。
30代前半くらいだろうか。ガッシリした身体つきにワイルドな無精髭、やや大きめだけど涼しげな瞳の男だった。
美人や可愛い女の子に振り向くことはもちろんあるけど、こういう同性のかっこいいタイプにも思わず目が奪われてしまうのは、人間のサガってヤツか。
小野寺くんとはタイプが違うけど、この人もまた、女にモテそうないい男だったので、俺はこっそりその客をチラチラ見ながらレジ打ちをしていた。
「158円です」
松本がソーサーにカップを乗せて、客の前に差し出すのと同時に、俺が金額を伝えると、男はその泳いでいた視線をこちらに向けて、こう言った。
「あの、天慈くんは……いますか」
耳触りのいい声だったけど、咄嗟の質問に思わず身体が固まってしまう。
「テ、テンジ……?」
誰だ、それ?