♠狙われた女♠-10
そんな微妙な男心なんて知らない松本は、イタズラっぽく笑いながら、
「ホラ、あたしに見惚れてないで早くお金数えてレジにしまいなよ」
と、トゲのある言葉を放つ。
「う、うるせー!! 誰も見惚れてなんかいねえよ!」
「えー、そう? 顔、赤いよ?」
慌てて頬を押さえてみると、手のひらに伝わる顔の熱さ。
そんな俺を見てクスクス笑う松本には、もう反撃なんてまるで不可能と悟り、観念したように硬貨を数え始めた。
ちくしょー、惚れた弱みってヤツは本当に厄介だ。
きっと、松本もそれをわかってるから、わざと俺に対してからかってくるんだ。
告白する前の松本は、本当に優しくていい娘で、天使のような女の子だったのに、今のこいつは鬼だ、悪魔だ!
……小野寺くんにはとびっきりの笑顔を見せるくせに。
またしても苛立ちが込み上げて来た俺は、ついつい数え終えた硬貨を乱暴にレジにしまった。
「あれ、怒った?」
「怒ってねえよ、イラついてんの!」
「なんで?」
なんでって……小野寺くんと態度が違い過ぎるからなんて言えるわけねえだろが!
ジロリと松本を睨んだ俺は、
「オメーの二重人格な所がイラつくんだよ!」
「えぇ、そうかなあ?」
「明らかに態度違うだろーが! 小野……じゃなくて、告白する前はあんなに優しかったのに、今じゃ俺をバカにしっぱなしだろ、どう見ても」
小野寺くんの名前を出しかけてやめたのは、せめてもの情けだ。
きっと、小野寺くんの話をすると松本があの寂しそうな顔をするってわかっていたから。
松本は性格最悪のクソ女だが、あの寂しそうな顔を見ると俺まで胸が痛くなるのがわかっていたからだ。