xxxHOLiC+〜憂鬱来て〜(後編)-2
「あの娘はあなた達の世界でも時々、空間を断つでしょ。それの応用みたいなものね。 まあ、この状態は両世界にあまり良いとは言いがたいけど」
侑子の瞳はキョンをしっかりと見据えていた。
キョンはその目を見ると石にされるのではないかと目を合わせなかった。
「このままだと世界はどうなるんですか?」
「そうねぇ。 二つの世界が相殺しあって消滅するかもね」
ハルヒの奴め俺達の世界では古泉達がなんとか食い止めているのによその世界まで巻き込んだら古泉達が大変だろうが、とキョンは他人事のように考えた。そう考えないとやっていけないと思ったからだ。
「ただいま! さっそく作るわよ」
ハルヒが元気よく玄関を開けて入って来るのがわかった。
「あなた達の世界とこっちの世界とのつながりを解くわ。代価はあの娘の料理でいいわ。 あの娘の願いは私が叶えた分けじゃないから」
キョンは無言で首を縦に振った。何故かこの人の言うことは聞いた方がいいような気がしたのだ。
待つこと半時間。
途中、ハルヒの声で『いつまでめそめそしてるのよ! 手伝いなさいよ』
などの意味不明な声が聞こえたがあえてキョンは聞こえないふりをした。
「さて出来たわ」
ハルヒはクリスマスにSOS団で食べた鍋を熱そうに鍋掴みで持ちながらやってきた。 後ろからはやたら元気のない四月一日がよろけながらついてきた。
「うぅん。 美味しいそう〜。 そこに置いてちょうだい」
ハルヒは指さされた机に鍋を下ろした。四月一日はそよ風でも倒れてしまうのではないかと思うほど弱々しく立っていた。
「さて、あなたの願いを叶えましょう。こっちにいらっしゃい」
侑子は隣の部屋のさらに奥の襖に連れて行った。
「ここよ」
襖を開ける、そこには闇が広がっていた。
「なにこれ! 不思議だわ あたしが求め続けてやまない不思議だわ」
ハルヒのテンションは上がりに上がっている。
「入りなさい。そこにはあなたが望んだ世界があるはずだから」
「本当に! いくわよキョン! 我らSOS団の真の目的が果たされる時がきたわ」
ハルヒにネクタイを掴まれキョンはおずおずと歩きはじめた。不意に手に紙らしき物の感触を感じた。
(帰ったら見なさい)
頭にダイレクトにそう聞こえた気がした。
ハルヒとキョンが襖の奥に消えた。
「ところで四月一日。 なにかあったの?」
「それがですね…………
キョンは目を覚ました。 いつもの部室の光景が目の前に広がっていた。
机の向かいには古泉。急須にいろいろな茶葉をいれて試行錯誤している朝比奈さん。
部屋の隅で分厚い本を読んでいる長門。
団長席では…ハルヒが高いびきをかいていた。
「おかえりなさい。どうでした、不思議な店は?」
無駄に爽やかな古泉の笑顔を無視して、握っていた紙を見た。
(彼女のこちらでの記憶は消しておいたわ。 また私の所に来られても厄介だし。あと彼女に鍋美味しかったって伝えておいて)
と書かれた隅に美味そうに鍋をつつく侑子の絵が描かれていた。
「ふぁあ〜」
ハルヒがあくび混じりに起きた。
「眠い。 今日は解散。 帰って寝るわ」
ハルヒはそれだけ言って部室を出ていった。