♥重い男♥-9
「里穂ちゃん、大丈夫……?」
あたしの異変に、小野寺くんが心配そうに顔を覗き込んできた。
気付けば背中にじっとり嫌な汗をかいて、喉がカラカラに乾いていた。
あの男のことを考えただけで、身体がこうも拒否反応を起こしてしまうのか。
あたしはすっかり冷めた紅茶を一気に飲み干して、喉を潤した。
「うん、大丈夫。ちょっと偏頭痛なだけだから」
「お薬飲む……?」
「平気平気。もう治った」
そう言ってあたしはニッコリ笑って首を横に振った。
そう、あの男のことなんて考えなければ全然平気なのだ。
家族思いの愛妻家のフリをして、その陰では別の女と恋愛ごっこをするような男のことなんて。
だけど腑に落ちていない小野寺くんは、未だにあたしを心配そうな顔で見つめている。
「ほーんと平気だってば! 天野くんの告白を思い出したら頭が痛くなっちゃっただけだから」
「里穂ちゃん……」
「ほんと天野くん、暑苦しい告白してきたんだもん。ずっと大切にするから付き合って下さい、なんて重くて重くて!!」
言葉でなんかいくらでも言える。あの男もきっとそうだったんだろうから。
だから、あたしは本当の愛なんて信じない。
今度は告白してきた時の天野くんの顔がぼんやり浮かぶ。
真っ赤になった、真剣な顔。
それすら白々しく思えて舌打ちが出てくる。
言葉通りの愛を受け入れたって、いつか人は心変わりをして、裏切っていくんだから。
「……だから、天野くんみたいな重い男はホント、無理なの」
あたしは、小野寺くんにも聞こえないくらいの小さな声で、そう呟いた。