♥重い男♥-3
小野寺くんが初めてスウィングにアルバイトとして入ってきた時の女の子達のざわめきは、今でもはっきり思い出せる。
ちょうどうちの店にイケメン担当がいない時期だったから、久々のイケメン――それもかなりレベルの高い――の登場は、まるでライオンの群れに肉を投げ込んだような騒ぎだったな。
そしてその頃のあたしはと言うと。
こんなカッコイイ男が彼氏だったら、友達に自慢できるだろうなって軽い気持ちから、小野寺くんに興味を持ったんだ。
以前スウィングに在籍していたイケメンにお熱を上げたこともあったけど、その人は現アルバイトリーダーをしている小夜さんとつきあっちゃったから、次のターゲットにちょうどいいや、くらいの気持ちで。
正直、あたしは自分の容姿に自信があったから、ちょっとモーションかけたら絶対オトせるって思ってた。
だけど、小野寺くんの反応はイマイチ薄くて。
デートのお誘いをすると、嬉しそうにノってくれたのよ?
でも、ロマンチックな映画を観ても、カラオケで男の子ウケのいい歌を歌っても、男の子が好きそうなお店をショッピングしても、手応えは感じられなかった。
さりげないボディタッチも、何人もの男をオトしてきた上目遣いをしても、小野寺くんはいつも顔色一つ変えなくて。
だから、あたしはついに強行手段に出たんだっけ。
「なーに、ジロジロ見て」
自分のカップにも紅茶を注いだ小野寺くんは、両手で小さなそれを持ちながら、無駄にツヤのある唇をすぼめてふう、ふう、と冷ましている。
たまらずあたしはクスクス笑いながら、
「ん、あたしが小野寺くんにキスしようとしてたときのこと思い出しちゃった」
と、彼のセクシーな唇に向かって指を差した。
そう、あたしは、何度となくアタックしても暖簾に腕押しの状態にしびれを切らしたある日、バイトの休憩で二人っきりになった時を狙って、彼に迫ったのだ。
キスをするのに言葉なんていらない。
ただ、黙って潤んだ瞳で見つめてからゆっくり顔を近づければなるようになる、そう思ってたのに。
次に感じたのは肩を突き飛ばされた衝撃。
びっくりして目を開けると、そこにはあたし以上に潤んだ瞳で、下唇を噛み締めていた小野寺くんが、
『僕……女の子とそういうことする気ないから』
と怯えたような顔でこちらを見つめていたのだった。