♥重い男♥-2
「はあ……食べ過ぎちゃった」
後悔するのはいつも食べ終わってから。
あたしは取り戻せない時間にため息を吐くしかなかった。
でも、このスコーンが美味しすぎるから悪いのよ。
それだけじゃない。小野寺くんの料理はいつも何でも絶品だから、ここに来るたびにあたしはこのため息を吐く羽目になる。
「大丈夫だよぉ。里穂ちゃんは痩せすぎなんだから、食べ過ぎるくらいがいいんだよ」
そんなあたしの憂いを察した小野寺くんは、長い睫毛をはためかせて、あたしのカップにおかわりの紅茶を注いだ。
あたしにそう言うくせに、小野寺くんがスコーンに手をつけなかったのは、おそらく自分「は」太りたくないから。
全く、そういうところはしたたかなんだよね。
きっとこれが女友達だったら、モヤモヤしてたんだろうけど、相手が小野寺くんなら、それもまた彼のキャラとしてなぜか許せる。
「……どうしたの?」
ボーッと小野寺くんの仕草を見つめていると、その視線に気付いた彼がこちらを向いた。
「ん、小野寺くんってやっぱり美しいなあって」
「やだあ、嬉しいっ!!」
片手で頬を押さえ、もう片方の手をパタパタ動かす彼の仕草はまさしく女の仕草のそれ。
その長い指は骨張ってるけど、スラリと細くて、大きくて。
この手に触れたい、触れられたいと思う女の子はたくさんいるんだろう……けど。
容姿端麗な小野寺くんは、「カッコイイ」と褒められるのをすごく嫌がる。
代わりに、「美しい」とか「キレイ」って言われると照れながらもすごく嬉しそうに笑う。
そんな彼の笑顔を見る度、あたしはいつも思うのだ。
こんなに完璧な外見してるのに、中身が「オネエ」だなんて、ほんっっっとうに勿体無いな、って。