樹梨菜12歳、万引きが見つかって…-11
しばらくの後、僕は彼女の手を引いて、シャワーを浴びさせてやった。その間に、汚れた衣服も洗濯してやった。彼女は終始無言で、僕のするのに任せていた。
「樹梨菜ちゃん、最後にこれを見て…」
乾燥機で乾かした衣服に袖を通し、すっかりここに来たときのままの姿になった彼女に、僕は口止めのために声を掛けた。ノートパソコンのスクリーンには、今日の痴態の一部始終が映し出されている。自分で楽しみつつ、口止めの材料にもするため、最初からビデオカメラを仕掛けておいたのだった。
「もしも、樹梨菜ちゃんが、今日のことを誰かに言ったら、万引きの映像と一緒に、これも公開することになるよ。それは嫌だよね。黙っていられるかな?」
彼女は無言で、しかし確かに頷いた。ポシェットから手鏡を取り出すと、ちょっと前髪を直して、そそくさと帰ってしまった。
それから何日間かは、不安で眠れない夜が続いた。彼女が誰かに言うのでないだろうか、そうなったら僕は破滅だ。あんなことをしでかしたのだから当然と言えば当然だが、僕は恐ろしい不安と戦わなければならなかった。
あの日から一週間が過ぎた頃、僕はまた気まぐれに店番を引き受けた。その日のことである、夜に眠れない分、昼間はとても眠たく、ウツラウツラしていた僕の目がいっぺんに覚める出来事があったのは。彼女が、樹梨菜がまた店にやってきたのだった。
僕の心臓は、バクバクと鼓動を速め、喉がカラカラになるほどに緊張した。一体、何のために? もしかしたら、僕を脅迫しに来たのかも知れない。あれだけのことをしでかしたのだから、当然だ。とはいえ、そんな恐ろしい事態からはどうしても逃げ出したい。
僕は無意識のうちに彼女の一挙手一投足を見つめてしまった。するとどうだろう、ジャニーズカードの前に来た彼女は、僕のほうを一瞥し、小悪魔のような微笑みを見せたかと思うと、カードをポシェットに入れ始めた。僕がポカンとしているうちに、彼女はスタスタと店を後にしてしまった。
「こりゃあ、もう一度、キツーいお仕置きをしてあげないとな…!」
彼女の真意を悟った僕は、ニヤッと笑うと、ばあちゃんに引き続き店番を引き受ける旨を伝えるため、階段を駆け上っていった。