あの人の街-2
神保町で日比谷線に乗り換えて六本木に向かっていた。早く今日の出来事を忘れたかった。六本木通りを渡りコロンビア人が仕切るpubに着いてホッと息を吐いていた。
「ローワンズクリーク、ロックよ」
「どうしたんだい佳奈ちゃん。今日はあの日かい?」
「そうそう、あの日よ。早くくれるかしら」
コロンビア人のボーイに適当に相槌を返して早く酔っ払いたかった。思い出すだけで嫌になる一日だ。酔いに任せてエッチした挙句、あの人が居ない寂しい街を再確認してきた不毛な一日だった。焦燥感に苛まれた私は一刻も早く今日を忘れたかった。
「そんな怖い顔しちゃダメだよ。佳奈ちゃんが笑うと世界が笑うんだ。ほら笑ってよハニー」
「相変わらずね。能天気って才能よ。あなた凄いわ」
丸く削られた氷の底から強烈なスコッチの匂いが鼻を突き上げていた。嫌な記憶を消し去るために一気にスコッチを開けた私が酔っ払うには、そんなに時間は掛からなかった。