♠性悪女♠-1
「ごめんなさい」
勢いに任せ過ぎた感は、自分でもわかっていた。
だから、目の前の彼女が頭を下げるのも仕方ないとわかっていた。
でも、振られるのはそれなりに痛手で。
ならば、せめてこのままそっとして欲しかったんだ。
なのに、目の前の想い人は、俺の交際の申し込みをただ断るだけではなく、
「あたし、天野くんみたいなクサそうなタイプって、生理的に受け付けないの」
と、ニッコリ微笑んで、さらにダメージを与えてきやがったのだ。
◇
「ク、クサそう……?」
一瞬頭が真っ白になって、言われた言葉をおうむ返ししていると、彼女は笑顔のまま頷く。
ああ、この笑顔は、やっぱり天使だ……。なんて余韻に浸る暇も無く、
「そ、天野くんっていつもスポーツばかりしてて、汗クサそうでしょう? それに、身体もいかつくて怖いし。あたし、そういうの無理なのよ」
彼女はその可憐な小さな唇を動かし、俺への暴言を次々と吐いていく。
しかもあの極上スマイルを崩さないまま。
そしていかに俺が生理的に受け付けないかを熱弁した彼女は、一度だけ掛時計をちらりと見てから、
「そういうわけだから、じゃああたしバイトに戻るね」
と、ヒラヒラ手を振りながら、休憩終了のタイムカードを切って、スタッフルームのドアを開け、フロアに戻っていった。
狭いスタッフルームに取り残された俺は、ようやく我に返ったようにまばたきを何度もしながら、彼女が出て行ったあとのドアを見つめていた。
振られたのは、別に構わない。当たって砕ける覚悟だったから。
でも、あの女、次に何て言いやがった?
「クサそう」なんて、かなり傷つく言葉。
確かに俺は、ガキの頃から続けていたバレーを、大学生になった今でも頑張って続けている。
それだけじゃなく、昔からスポーツバカと呼ばれるくらい、運動ばかりやってて、勉強やその他がおろそかになってるのも自覚している。
でも、クサそうなんて、スポーツに打ち込んでる人に向かっていう言葉か!?
湧き上がってくる怒りで身体が勝手に震えてくる。
ソレを抑えるため、必死で髪の毛を掻きむしった。
「ふざけんな! 俺は毎日風呂にちゃんと入ってるし、部活が終わったらすぐシャワー浴びてるし、不潔にしてるつもりなんてねーぞ!!」
ボルテージが上がった俺は、地団駄踏みながら一人で吠えた。
一世一代の告白だったのに!
一目惚れから始まったこの恋、アイツは俺の運命の相手だとまで思っていたのに!!
それが、あんな性格の悪いクソ女だったとは!!!
「ぜってー許さねえぞ、松本里穂!!」
愛は、憎しみに変わると言う。
まさにその言葉の通り、俺は、ついさっき告白した松本里穂への憎悪をたぎらせていた。