♠性悪女♠-9
そんな彼女がガラにもなくて、ちょっとビビる俺。
告白前ならいざ知らず、本性を知ってしまった俺にそんな顔したってもう騙されねぇぞ!
「しゃーねーだろ、可愛いってのは事実なんだから。でもな?」
「天野くん……」
「お前がいつも猫被ってるのが原因なんじゃねーの? いつも明るくにこにこしてて、いい娘キャラでさ。そんなんじゃなく、その腹黒い所をもっと前から出してれば、外見だけで好きになるような男なんて寄って来なかったんだよ!」
「は、腹黒い!?」
松本がびっくりしたように目を丸くしているのを見て、初めて自分が優位に立ったことを知る。
よし、ここからは俺のターンだ!
「ああ、黒い黒い、真っ黒い! 振った途端に性格クソ悪くなりやがって! ったく、俺だってオメーがこんな性悪女だって知ってたら告白なんてしなかったわ!!」
びっくりして口をパクパクさせる松本に、俺はさらにダメージを与える。
くらえ、痛恨の一撃!!
「ハッキリ言ってなー、告白したことメッチャ後悔してるわ!! 何だよ、あのバイトでのいい娘キャラ! いっつもニコニコしてて、楽しげにしてるかと思いきや、時折寂しそうに笑ったりーの影のある女演じやがって!! そういうのも全部キャラ作りだったんだろ! もう、俺は騙されねぇ!!」
ビシィッと揺れる電車の中で、松本の顔に指差しをしてやった。
「犯人はお前だ!!」と言ってるようで実に気持ちイイ。
しかし当の松本は怒るわけでもなく、呆然とした顔で固まっているだけだった。
二人の間に、タタン、タタン、と電車の走る音だけが響く。
「寂しそうに笑ってた……って、あたし、そんな顔してた?」
独り言のようにボソッと呟いた松本は、その大きく見開いた瞳をみるみるうちに潤ませる。
ヤバい、言いすぎた!!
「いや、あの、俺のカン違いかもしれないんだけど、そう見えただけって話だ! 楽しくみんなで話してる時とか、たまにそんな風に見えてた気がしてたんだけど、多分俺の見間違い……うん、錯覚だ、錯覚」
何とか逆襲したかったのに、思わずカウンターを食らった俺は結局松本にこれ以上のことは言えなかった。
クソ、コイツの泣きそうな顔って反則だよなぁ。