♠性悪女♠-5
◇
告白する前は、松本の返事次第でどう行動するかを予め決めていた。
もしOKだったら、大手を振って松本と帰る。
もしNGだったら、恐らく罪悪感を持っているであろう松本に気を使わせないよう、普段通りに振る舞う。
そんな風に考えていた俺だったのだが。
「あー、そうなんだぁ。意外ー!!」
バイトが終わり、帰りの電車待ちをしている俺の隣で、松本は気まずさなんて微塵も見せずに楽しそうに誰かと電話で話をしていたのである。
遅番の俺達は、店を閉めるとまっすぐ駅に向かうのだが、古川さんだけは反対方向の電車。
そしていつものごとくあのイケメン彼氏が迎えに来て、そそくさと仲睦まじく帰ってしまったから、松本と二人きりになる覚悟はしていた、けれど。
「あー、そう言えば、こないだ選んでくれた服、すっごくよかったよ」
「うんうん、チークあの色で大正解!」
「ホント!? 今度そのお店に連れて行ってよ」
松本は、まるで俺なんて存在していないかのように、電話の相手とおしゃべりに花を咲かせていた。
ふぅーっ……と苛立ちを抑えながら俺は深く息を吐く。
俺に気を使えよ、とは言わない。
でも、一緒にいる時くらい、電話を控えるのがマナーってやつじゃないのか?
それが例え、告白を断った単なるバイト仲間の男であっても、だ。
気まずくて、沈黙が怖くて、間を持たせるために友達と電話してやり過ごすのなら、まあよしとしよう。
だが、俺の一世一代の告白を『クサそう』とか『いかつくて怖い』とかいうふざけた理由で断り、告白の内容をこと細かく古川さんに説明をした松本が、気まずいなんて思うわけがなく。
ただ無邪気に笑いながら電話をする彼女にイラついて仕方がなかった。