♠性悪女♠-4
「だって、天野くん、さっき里穂ちゃんに告白したんでしょう?」
「へっ!?」
咄嗟の言葉に思わず声が裏返る。
しかし、古川さんはそんな俺を笑うこともなく、ただ申し訳なさそうに言葉を続けた。
「でも、里穂ちゃんが断ったって……。それで、里穂ちゃんが、このまま天野くんと組むのが気まずいから、あたしとフロア変わって欲しいって休憩から戻った時にそう言ってて……」
「ちょ、ちょ、マジすか!? 松本のヤツ、古川さんにそう言ったんすか!?」
「うん……、『天野くんが、きっとあたしと一緒にカウンター入るの嫌だろうから』って言ってたよ」
「…………」
「でも、里穂ちゃんはもったいないことしたかもね。一目惚れから始まってバイトに入るくらい好きになってくれる人を振っちゃうなんて」
「げっ、あ、あいつ、そこまで言ってたの!?」
「え、そうだけど……。『ずっと大切にするので付き合って下さい』って言われちゃったって……」
「うわーっ、うわーっ、マジかよ!!」
仕事中だと言うのに大きな声が出て、カウンター席に着いているサラリーマンがギョッと顔をこちらに向けた。
あ、あのクソ女……!!
頭がクラクラしつつ、定まらない視線を辛うじてフロアに向ければ、相変わらずテキパキ動く松本の姿。
いや、いやいや! それは違うだろ松本!!
カウンターが気まずいからフロアに出るってのは、まだいいよ?
だけど告白の内容までベラベラ他の人に話してんじゃねぇ!!
殺気立つ視線に気づいた松本が、キョトンとあどけない瞳でこちらを見た。
だけど次の瞬間、俺に向かってイタズラっぽい笑みであっかんべーをしてきたのだ。
「…………!!!」
告白する前の俺だったら、そんな小悪魔っぽいことされたら一気にハートをノックアウトされていただろう。
でも、今はあのツラからは悪意しか感じられない。
気まずいなんて微塵も思ってねえじゃねぇか!
確かに可愛いけど!! すっげ可愛いけど!!
ムカつくムカつくムカつく!!
そうやってギリギリ奥歯を噛み締めている俺を、あのクソ女はフロアからケラケラ笑っていたのだ。