♠性悪女♠-3
「おう、おはよ」
カウンターに入り、レジの所へ歩いて行くと、白い歯を見せて爽やかに微笑むイケメンが声を掛けてきた。
そんな彼は、洗い上がったティースプーンの吹き上げをしている所。
「はよっす、小野寺くん」
ベリーショートに軽いパーマで無造作感を出したヘアスタイルは、端正な顔した小野寺くんによく似合ってて、男の俺からみてもモデルみたいないい男だよなって思う。
「んじゃ、レジ交代ね。お疲れさん」
手際よくスプーンの吹き上げを終わらせた彼は、ポンと俺の肩を叩いた。
このイケメンは17時上がりだから、俺と交代になる。
俺が、こんなイケメンだったら、松本は告白を受けてくれたんだろうか。
古川さんに挨拶をしてカウンターを出る小野寺くんの横顔をぼんやり眺めた。
細身で足が長くて、八頭身くらいの見事なスタイル。
俺とほとんど同じ頃にこのバイトに入った小野寺くんは、すでにうちのバイトのイケメン担当となっていた。
「お疲れさまでしたぁ」
ちょうどカウンターの返却口に食器を下げに来た松本が、小野寺くんにワントーン高い声で挨拶をする光景が目に入った。
それだけじゃない、なんか他にも松本が二言三言話しかけては、キャピキャピ笑う姿が目に入っていて、レジでぽつんと立ってる俺の心もソワソワ落ち着かなくなる。
明らかに小野寺くんにデレデレしている松本を見ると、胃がモヤモヤしてくるのだった。
決して俺には見せない笑顔を小野寺くんには見せる松本。
深いため息を吐いていると、明日のサンドイッチの仕込みを終えた古川さんが、俺の所にやって来た。
「んじゃ、ここからは天野くんがレジ、あたしがドリンクやるから」
ニコニコ笑って俺の隣に立つ彼女に、ふと疑問が湧き上がる。
「あれ、シフトでは俺がレジで松本がドリンクってなってたけど、変更したんすか?」
すると、古川さんはその笑顔を一瞬強張らせた。
ん、何だ……?
彼女はそのまま答えに窮したらしく、視線をしばし泳がせていたけど、やがて意を決したように俺に耳打ちをして来た。