♠性悪女♠-11
扉が開いた先に見えるはN駅。
住宅が密集しているこのベッドタウンを利用する人は多く、サラリーマンやOL、俺達みたいな若者など、老若男女構わずたくさんの人が吸い込まれるように、ドアの向こうに飛び出して行く。
車内は空席があちこち出来、俺達が立っていたすぐそばの席も空いた。
よし、松本に座ろうと声をかけなければ……!
俺の言葉が原因で、松本を傷つけてしまったようで、なんとかこの気まずい空気を打開したい俺は、咳払いをしてから声を振り絞った。
「ま、松本……席空いたから、よかったら座れ……よ!?」
勇気を出して彼女の方に向き直った所で、松本の姿が消えていたことに気付いた俺は、思わず声が上ずってしまった。
見れば、彼女はホームに降り立っていて、こちらにニコニコ笑いながら手を振っていたのである。
人の波に邪魔にならないよう、自身もホームに降りてそれから再び電車に乗るのなら話はわかる。
でも、松本は一向に乗り込む気配を見せずに俺に向かって手を振るから、俺はだんだん訝しくなってきて、恐る恐る口を開いた。
「松本、お前の駅はまだ先だろう? これ最終だし、早く乗らないと……」
「うん、いいのいいの」
「いいって、何で……」
そこまで言ってから、視界の端で何かが動くのを捉えた俺は、そのまま目を見開いてしまう。
「お待たせ、里穂ちゃん!」
「は、えぇ!?」
視界の端の物体の正体は、松本の元に駆け寄るうちのバイトのイケメン担当・小野寺くんであった。