白昼のスクランブル交差点-1
帰宅すると部屋の前にルナさんが立っていた。
「あ、こんにちは。」
ルナさんはうつむいたまま何も言わない。
「俺、ずいぶん上達したんですよ。」
黙ったままだ。
「俺を試してるんですか?よーし、入りますよ。」
ルナさんの手を握った。
「あっ!」
バチーン、と手を弾き飛ばされた。電撃を喰らったように。
「そんな…。なんで入れないんだ。」
ルナさんが顔を上げた。俺の目を真っ直ぐに見つめ、消えた。
俺は歩き始めた。自分の意志とは関係なく。ルナさんに憑依され、動かされているのは間違いないが、存在を感じられない。体のコントロールも完全に奪われた。しゃべることすら出来ない。
駅前に出た。スクランブル交差点の歩行者信号が青になると、俺、つまりルナさんは渡り始めた。どこへ行くんだろう。
交差点の真ん中で急にルナさんが立ち止まった。俺はズボンのベルトを外し、ボタンも外してジッパーを下げ…って、な、ナニするんですか、ルナさん?
パンツとズボンを一緒に掴んで、ズルっと足首まで引きずり降ろした。不意打ちをくらってまだ寝ぼけている俺がポロリン、と顔を出した。や、やめてよルナさん、まるっきりヘンタイじゃないですか!
あ、あれれ?なんだかムラムラしてきた。グイグイ上を向いていく。そうか、煽られてるんだ、ルナさんに。ああもう、ガマン出来ない。俺は強く握りしめた。
「な、何あれ?」
「うわ、なんだあいつ。」
「ヘンタイー!」
周囲がざわめき始めた。そりゃそうだろう。人通りの多い白昼の交差点でこんなことしていて、騒ぎにならないはずがない。でも…。俺はゆっくりとしごき始めた。
それにしても。片手で握って、あるいは握られて?いるだけなのに、なんて気持ちいいんだろう。口も使ってもらえたらなあ。なんて考えているうちに俺は自分の息がどんどん荒くなっていくことに気づいた。
「おい、通報しろ!」
「そこに交番あるよ!」
ああ、ダメだ。手が止まらない。しごく度に腰がビクン、と跳ねる。ジン、ジン、と先端から快感が這いあがってくる。膝もガクガクだ。これはルナさんに操られているのか、俺がしたくてしてるのか…。もう区別がつかない。でも、もっと痛めつけられたいと俺の下半身が望んでいることだけは紛れもない事実だ。
信号が青に変わった。交差点の中央には俺しか居ない。人も車も遠回りしてよけていく。
視界の端に、小走りに近づいてくるおまわりさんが見えた。
「君、やめなさい!」
俺は端正な顔立ちをした女性警察官の方を向き、握りつぶさんばかりの力を込めてしごき上げた。
「やめなさ…」
ドピューーーン。
一直線に飛んだそれは、彼女のメガネに直撃した。レンズからダラーっと白濁した液体が垂れ落ちていく。それを冷静にハンカチで拭き取った女性警察官が俺に告げた。
「気が済んだ?とりあえずそれをしまいなさい。」