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水鏡ーミズカガミー
【ファンタジー その他小説】

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再会-1

夏の終わり、風の吹く方角が西から東へと変わる日、夕方の18時を過ぎたら、厳かにアノ人に会う準備を始める。

シャワーを浴びて軽くメイクをして髪を梳かしたら、お気に入りのワンピースとショールを身に付ける。
今朝採ったキイチゴと自家製のブドウ酒とパン、それにヤギのチーズをバスケットに入れて戸締りを確認する。

よし、準備完了!

ランプに灯りをつけて外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。
少し肌寒い風が吹いている。
夏が過ぎると、冬まであっという間で過ごしやすい今の季節はとても貴重なのだなとキノは思った。

そしてアノ人と過ごす時間もとても貴重だ……。

少し切ない気分を感じながらも、森の奥深くへとキノは歩いて行く。
アノ人が居る場所は毎年同じだ。
ヒト気の無い方へまっすぐ歩いて行くと、目の前に大きな樹が見えてくる。
ゴツゴツとしたうねる様に絡み合った幹に1年中枯れることのない緑に艶めくたくさんの葉を付けている樹は、この森の守り神だと昔おばあちゃんから教えてもらった。

キノはその樹に優しく触れて目を閉じる。
フーッと息を吐いて目を開けると、その樹の左右に今までなかった道が現れる。

「さーて、今年はどっちかな?」

キノは腕組みをして、一寸考える。

「うーん……。よし、今年は左の道にしよう。」

両足のつま先をくるりと左に旋回させると、キノは勢い良く歩き出した。
しばらく歩いて行くと、洞窟が見えてきた。
キノは臆することなくその洞窟に入って行く。
洞窟の中は真っ暗で、ランプがあっても薄暗い。
最初は暗くて不安な気持ちで進まなければならないが、だんだん目が慣れてくると同時に、足元にキラキラ光るものが見え出した。
次第にそのキラキラは壁や天井にも見え出してランプが必要ないほどの輝きを放ちはじめた。
黄色、緑、赤、青、紫…色とりどりの光の正体は、宝石のような石だった。

「わぁー。素敵ね。左の道を選んで正解だったわ!」

キノは眼に映るキラキラ光る石をじっくり眺めながら洞窟の中を歩いた。
だんだんと石の光がなくなってくると、外に自然の光が見える。
洞窟を出ると目の前に大きな湖が広がった。
透き通るような水色の湖に月の光が反射し、先ほどとは違う優しい輝きがキノを迎え入れてくれている。


「今年はとても素敵な順路をありがとう。
去年の雲の道も素敵だったけれど、今年はとてもロマンチックで私、気に入ったわ。」

キノが誰もいない湖に話しかける。
すると湖の中からユラユラと魚のような姿のものがキノに向かってやって来た。

「気に入ってくれて何より。
今年は左の道を選んだのですね。」

静かに水面が揺れ、チャポンと小さく音がしたかと思うとその中から銀色の長い髪の毛をした美しい人魚が現れた。

「お帰りなさい、スイ。」

キノはその人魚に向かって優しく微笑んでみせた。
スイと呼ばれたその人魚はゆっくりと水面から身体を出すと、鱗だった部分がだんだんと着物や人の足へと変化していった。

「人魚の姿のスイも素敵だけれど、人の姿もなかなか素敵ね。」

「そうかな。ありがとう。
お望みなら、半魚人の姿にもなれますよ。」

少し意地悪そうな笑みを浮かべながらスイはキノの元へと歩いて来る。

また変なことを言って……と半ば呆れ顔のキノだが、その表情はどこか嬉しそうだ。

スイはキノの前に立つと、優しくキノの髪を撫でた。

「キノに会いたかったよ。
元気にしていましたか。」

スイの黄金色の瞳がキノをまっすぐと見つめた。
キノはまっすぐと見つめ返し、笑顔で頷く。

「元気にしていましたよ。
今年もこの時期を楽しみに待ちながらね。」

2人は少し見つめあった後、静かに抱擁をした。
スイはさっきまで湖を泳いでいたはずなのに全く濡れてはいない。
ひんやりと冷たいスイの体と髪の毛が気持ちが良い。


きゅーぐるるるるる………


静かな湖畔にキノの腹の虫の音が鳴り響く。

キノはパッとスイから離れると、はにかみながら少し赤くなった。

「ご、ごめんなさい。
せっかくの感動の再会なのに、私のお腹ったら……。
今日は楽しみにしすぎて朝から何も食べてなくてね……。」

キノがもごもごと言い訳を始めると、スイは声を出して笑った。

「あはは、キノ。
そんなに恥ずかしがることないですよ。
私もちょうどお腹が空いていましたし。
それにさっきからキノの持っているバスケットから良い匂いがしてきていますしね。」

スイはにこっと微笑むと、キノの持っているバスケットを持ちあげた。

「そろそろキノが来る頃かと思って、食事の用意をしておいたのですよ。
冷えて来る時間になりましたから、一度中へ入りましょう。」

スイは再び優しく微笑むと、湖の奥に見える小屋に歩きはじめた。

私って肝心な時に間の悪いことしちゃうのよね……。
少し肩を落としながら、キノはスイの後をついて行った。





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