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雨の訪問者
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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雨の訪問者-1

 「とりあえず上がれよ。」
 午後から激しく降り続けている雨の中、びしょ濡れで俺の部屋のドアを叩いた文香(ふみか)を玄関に招き入れた。彼女は無言で立ち尽くし、それ以上入ってこようとしない。
 「なんだよ、俺に何かされないか心配かぁ?一緒にバカやった仲じゃないか。」
 「…濡れちゃうから。」
 「いいさ、どうせ汚れてる。気にするな。」
 文香は少しほっとした表情をした。
 「うん、ありがとう。」
 文香がこの部屋に来たのは初めてではない。しかし、二人きりになったことは無かった。
 「シャワーはそっち。知ってるだろ?着替えは俺のジャージぐらいしかないけど、ガマンしてくれ。」
 「使っていいの?シャワー。」
 「何回も入ってるじゃないか。みんなで騒いだ時とかに。」
 文香はようやく微笑みを見せた。
 「そうだったね。」
 「それにな、真冬じゃないとは言っても寒かっただろ?震えてるじゃないか。濡れたままじゃ体壊すぞ。」
 「へへ、バレたか。本当は寒くて堪らないの。遠慮なく使わせてもらうね。」
 「ああ。タオルと着替え出しとくから。ごゆっくり。」
 文香がイタズラっぽい目で訊いてきた。
 「ねえ、覗いたりしない?」
 あの頃の無邪気な文香が心を掠めて行った。俺も応じてやった。
 「どうかなあ。それとも、どうせなら一緒に入る?」
 「…いいよ。」
 「え…。」
 「なんてね。」
 「あ、ああ。」
 俺が焦ったのは意外な返しをされたからではない。完全にふざけて答えたのではないということを、彼女の何気ない仕草表情に感じたからだ。そして、俺がそれを見逃さないことを、文香も分かっているはずだ。俺たちはそのぐらい長く親しい付き合いをしていた。でも、それはもう、過去となってしまった。
 脱衣場からの衣擦れの気配が止み、ガタンと風呂場のドアが閉まると、温かい水滴が文香に注がれる音が聞こえてきた。
 俺はソロリと脱衣場を覗き、誰もいないのを確認してからタオルと着替えの用意を始めた。タオルはいつも俺が使っているものでガマンしてもらおう。ジャージはサイズが合わないだろうが他にないからしかたない。
 「あ…。」
 俺はその時、大変な問題に気付いてしまった。女性物の下着が無い。ほんの三ヶ月前なら一応あったんだが…。とりあえず用意出来た物を置いて、少し考えることにした。
 ソーっと脱衣場に入った。シャワーの音が続いているからまだ出てきていないはずだが、念のためだ。
 そこにはあるものが置かれていた。当たり前の話だが、文香が脱いだ物だ。きちんとたたまれている。彼女は既に何度もここのシャワーを使ったことがあるが、脱いだ物を見たのは初めてだ。これを着ていた中身がすぐ近くに居ることを、意識せずにはいられなかった。
 シャワーの音が止まった。俺は慌てて文香に訊いた。
 「もう出るの?」
 「あ、うん。居たんだ、そこに。」
 「ごめん。」
 「なんで謝ってんの?もしかしてホントに覗いてた?」
 「そ、そんなことしないよ。」
 「ふふ。分かってるよ。」
 まあ、本音を言えば覗きたかったけど。
 「ねえ。」
 「ん?」
 「率直に言う。女性用の下着がない。」
 「あ、そうか、そりゃそうだよね。いいよ、無くても。一晩ぐらい。」
 「あ、そうか、一晩ぐらいならいいか。」
 分かってはいたが、やはり今日は泊まっていくんだ。あの頃ならともかく、あいつの妻となった文香が俺の部屋で一夜を明かすなんて、なんとも奇妙な感じがする。しかし、家に帰れと言える様子でもない。
 「タオルとジャージ、置いとくね。」
 「うん、ありがとう。使わせてもらうわ。」
 俺は急いで脱衣場を出て声を掛けた。
 「いいよ。」
 ガタン。風呂のドアが開き、パサパサとタオルで髪を押さえる音、サーっサーっと体を撫でる音に続き、衣擦れが聞こえてきた。ジャージを穿き、袖を通しているのだろう。ジーというジッパーを引き上げる音がして、文香が脱衣場から出てきた。来た時とは別人のようにすっきりとした顔をしている。
 「お風呂、頂きました。」
 「お粗末さまでございます。」
 「いえいえ、結構なお手前で。」
 「何をおっしゃいますやら。」
 「…ねえ、まだやるの?これ」
 「いや、やめよう、このくらいで。」
 二人して笑った。屈託なく。何のわだかまりも無かった頃のように。
 「あ、ドライヤーあるよ。」
 「ありがとう。でも、最近は自然乾燥なんだ。」
 「髪、傷まない?」
 「んー、どうかなあ。見てくれる?」
 俺は文香に近づき、彼女の耳の横から手を差し入れて、しっとり濡れたストレートヘアに手櫛を入れた。洗いたてのシャンプーの香りがフワリと漂ってきて、少し戸惑ってしまった。自分が普段使っているシャンプーなのに。
 「あれ?傷んでるの?」
 澄んだ瞳で見上げてくる彼女にはまだどことなくあどけなさが残っている。
 「え?いや、大丈夫だよ。」
 「よかった。」
 俺は手に乗せたままになっていた濡れ髪をそっと下ろした。


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