MISCAST〜覚醒不能〜-1
覚醒不能。
劇団『卓越』の今回の劇のテーマだ。
出来もしない夢を見るドンキホーテ。
現在のドンキホーテ。
咬ませ犬の藻掻く姿を描く。
己の夢の中で独り相撲をする主人公。
時代や流行に
クルクルと
踊らされてることなど
気にしなていないのか
知りたくないだけか
無知な夢みる大学生Kが主役に決まった。
この二重風刺を気付けるものがいるだろうか。
Kは特出する能力はない。
今まで主役を張っていたSの入院。
今回の劇は意外性を求めてすべてのキャストをクジで決める。
そしてキャストの変更は一切なしと決められた。
「当たりませんように。」
彼は祈った。
しかし、
不幸にも主役の座を射止めたK。
今までは脇役しか出番がなく目立つ存在ではなかった。
台詞の覚えも演技のキレも今イチ。
開演は3ヵ月後。
時はゆるりと流れ
重圧と葛藤が彼をを締めつけていった。
Kは重圧で潰されるのか。
それとも……
まわりからは不満と不安の声が飛ぶ。
「あんなやつには務まらない。」
「脇役が主役をやるなんて…」
同じく彼自身も
「おまえには向いていない。」
自分で自分を信じてやれなかった。
彼は彼の影を捉え切れず
目を閉ざして
暗やみにいた。
朝も夜も。
運命に選ばれたMISCAST
時間が迫りくる。
「手遅れだ
主役はおれじゃない。
」
負の感情を必死で拭って
彼はうまく演じている舞台の上の自分を思い描いた。
その理想が叶うか。
現実という墓石の下で
芽を摘まれることになるのか。
逃げ場を無くした道化師。
すでに覚醒不能。
自分を信じられない時点で
終焉を思う時すでに。
主役を果たせず役たたずで死すのか。
夜も眠れなくなった。
食事も喉を通らない。
ある日彼は悟った。
今回のテーマは今の『おれ自身だ』
今のこの状況を演じればいい。
いや、演じるまでもない。
取り乱した今の自分そのものだ。
二重風刺を彼は気付いた。
それが彼に皮肉にも自信を与えた。
彼の中の闇が裂ける。
重力からの解放。
解き放たれた。
練習が始まる。
彼は威風堂々。
舞台にあがった。
覚醒不能。
だけど、
彼は目覚めた。