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恋のMEMORY
【少年/少女 恋愛小説】

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狂愛者の最後-6

満月の光によって皮肉にも明るく美しく光る一本のサバイバルナイフ。

これで何をしようとするのか、最早考えたくもない。

「やめろ、そんな事したってなにも解決しない。」
「だからうるせーんだよ!善人教師みたいな事ぬかして!」
「もうやめて、佐伯君!」
「なら俺と付き合えよ、そんな奴と別れて。」
「それは…。」
「でぇきねーーんだろっ!?だったらもう引き裂くしかねーだろ!お前らの体も絆も。」

目が本気だ、本当にどうしてこんな事に…。

原因である早乙女先輩が憎らしくて溜まらない。

「君も稲葉さんと同じ所に行きたいのか?殺人未遂、いや。」
「あーーうざうざうざうざうざぁっ!んなもんどーでも良いんだよ!お前らを引き裂いてやれれば、それで。」
「……。」
「俺は本気だ、お前を刺してそして。」

徐々に荒くなる息、それは最早獲物を狙う猛獣のようだ。

「佐伯君!目を覚ます。」
「るせぇるせぇるせぇっ!…もう耐えられん柊さんから離れろー!」
「っ!」

勢いよく彼へ向かってナイフを構え、突進してくる。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

絶句する私。

でもそのナイフを辛うじて交わし。

「やめろっ!君はそんな人じゃ!」
「っるさいっ!俺にお前の何が分かる!」

それでも彼を刺して葬るまで諦めない佐伯君。

「初めて知ったんだ、好きな人に振られるのがどんなのかって…、今まで俺から振る事はあったが!こんな事は……、いや違うか、天狗になってたんだ。」
「……。」
「先輩と別れてからどんどんと味わった事のない痛みや孤独感に苛まれ…、そんな時に柊さんの事を思い出して。」

絞るように手を休める事なく自分の心情を吐き出し。

「最初は本当にこんな事する気はなかった、でも。」
「想いを…抑えきれなかったんだね。」
「そうだよ!だから、だからぁ!」

風馬君は足を崩し、佐伯君の下敷きとなり。

「風馬君!」

「なぁ心の友よ、俺の事まだ親友って思ってんなら……………死んで?」
「っ!」

ナイフを構え、今にも彼の喉を刺そうとする。

「いい加減にして!そんなナイフ一本でどうこう出来る訳が!」

私も黙って見る事も出来ず、彼を刺そうとする佐伯君へ駆け寄る。

「来るなっ!」

彼へ向かおうとする私にナイフを突き出し、足をピタッと止める。

「やめて、……もう分かったから。」
「なら、今すぐ別れろ、そして。」
「……う、わか、り。」

こんな状況じゃ仕方がない、私は取りあえずこの場をどうにかする為にその要求を呑むふりをする、嘘とは言え危険だが、すると。

「別れないよ!」
「っ!!?」

きっぱりと言い放つ風馬君の一言。

それには私も佐伯君も驚き。

「ちょ、風馬君?何を言って。」
「そうだぞ!このナイフが見えないのか?」

そう怒鳴るとナイフを喉を指一本分の距離まで詰め。

「駄目っ!」

あぁもう肝が据わる。

「もしここで嘘でも別れる、柊さんを君にあげるって言ったら付けあがるよね?それでまたしつこい要求をしてきて。」
「何だと!」
「それでも良いでしょう!?今ここで嘘でもいいからそう言ってやんないと、でないと風馬君、殺されるのよ?」

殺される、何て嫌でも言いたくなかったが。

「確かにそうかもしれない、でも!そんな事してもまた同じことの繰り返しになる。」
「へぇー、そっかぁ、お前もバカだな、なら死んでも構わないってのか!?」
「…。」
「駄目よ風馬君!この人は本気よ!」
「そうだ!小鳥遊!お前なんか!」
「無駄だよ!」
「っ!」
「…あたる、君には僕を刺すことは出来ない、決してね。」
「何を…。」

急に彼を下の名前で言う。

「……だって、僕には分るんだもん、君は不器用でデリカシーのない所はあるけれど、それでも暖かくて楽しくて人の気持ちが分かる、優しい人…。」
「っ!……。」
「だから、そんな君が頭に浮かべない訳がない!僕を殺してもう二度と僕との想い出を振り返り死ぬほど後悔する事を、そして柊さんが滝のように号泣し今度こそもう二度と立ち上がれない事を!」
「っ、だ、黙れ……。」
「それでも刺したければ刺せばいい!それで君の心を救ってやれなかった、せめてをも罪滅ぼしとなるんならっ!」
「う………。」

全身が震えだす佐伯君。

「ほら、刺しなよ?大丈夫、僕は逃げない、抵抗もしない、恐れない、…だから。」
「うくく……。」

その言い放つ彼の顔に迷いも恐れもみじんこも見られない。

「あたる……。」
「うっ……くぅ!」

ついに観念し、持っていたナイフを力なく手から振り下ろし、そのナイフは地面へと突き刺さる。

「うっうう……、お前って…奴は。」
「良かったよ、いつもの君に戻ったんだね!」

強い憎しみから深い悲しみへと落胆する佐伯君、そんな彼をそのまま抱きしめる風馬君。

「……ごめんよ、本当。」
「良いんだよ、人を想い合うのに善も悪もない。」

するとそんな愛憎劇を観客席で眺めていたかのように幕が引いたタイミングを見計らい夜空から大量の雨水が私達に降り注ぐ。

「若葉、大丈夫っ!?」
「風馬っ!」

そこへ巴ちゃんと一条君が駆け付けてきて。

「あ…。」

佐伯君に呼ばれた時、嫌な予感しかしないのでこっそり巴ちゃんにSOSのメールを送ったのだ。

「私は、大丈夫。」
「…そうだね、あの二人も大丈夫そう。」

すっかり魂の抜けた彼を起こしてあげる風馬君。

それから佐伯君は一人で家へと向かい私達の集う場所を後にした。

「送るよ。」そう彼が誘うも軽く「いい。」と断って。

「佐伯、君……。」



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