温泉旅行-2
指定席に座った美奈子は早速お弁当を取り出してくれていた。
「約束通り、お弁当よ」
縞模様の包装紙に包まれた弁当箱はセロハンテープで止められていた。手作業の気持ちが伝わる優しいお弁当だった。
お弁当は、硬い梅干しを刻んだ丸いおにぎりとカニさんウインナーに厚焼き玉子、それと胡瓜の塩漬けだった。
「すごくホッとします。嬉しいです」
「カニさん可愛らしいでしょ」
「カニさん。子供の頃以来です」
「だろうと思った。だからね、ベタなお弁当にしたのよ。沢山料理を作ったら、外で美味しいものが食べれなくちゃうしね」
「おにぎり。凄く嬉しいです」
「お茶はね、ポットにあるわよ」
美奈子は小さな保温ポットを取り出して笑っていた。美奈子の準備に隙は無かった。こんな事されたら誰だって惚れてしまうだろうと思わせるお弁当だった。
隣の美奈子は、びっくりする程ちっちゃいおにぎりを取り出してこれは私のよ。と笑って食べ始めていた。美奈子の行動に何ひとつ文句の付けようがなかった。
海苔の変わりに紫蘇の葉で包まれたおにぎりは刻み梅干しが歯応えよく混ぜられていた。薄味の厚焼き玉子は鰹の出汁がしっかりと効いていた。
隣でお茶を冷ましがら車窓を眺める美奈子は、海だー。とおどけて笑っていた。
凄すぎる美奈子に溜息が溢れそうになってしまっていた。
文句なしのいい女だった。
心の中に今も居座る佳奈を思い出し、罪悪感に苛ませられながら、それを隠すように真面目に少しふざけて美奈子を笑わせて誤魔化すことしかできなかった。