TIME GOER ON-1
初秋。
高速を走る一台の車。
外装には傷みも目立ち車体は黒くくすんでいた。
運転席には淋しそうな表情の男が、
助手席には、造り笑いをしながら、窓を眺める女性。
終わって消え逝く恋の終着点をめざしている。
そう、もう戻れない二人の道の果てへ。
煙草に火を付けて吐き出す。
ため息の代わりに流れる煙。
わかっていた。
はじめから判っていたはずなのに。
未練や戸惑いが秋に変わることを許せない。
ずっと一緒だと思ってた。
そして君がずっと傍にいると。
夢ばかり見ていたのは僕のほうだった。
幸せすぎて見えなくなっていた。
でも、本当は気付きたくなかっただけだった。
二人の影が終わりへ差し掛かって伸びていたことも。
君の中に僕以外の誰かがいたことも。
今日ですべては白い泡のように浮かんで消えた。
出会ってから毎日がすべてが眩しすぎた。
初めてだらけの毎日。
満たされた空間。
それが音もたてずに崩れ落ちる。
それをただ見つめることもせず、目を反らし続けた。
だから、今も
「去かないで」
「一人にしないで」
届かないことばだけが僕の中からなかなか出ようとしない。
ただ繰り返し虚しく響く。
これが夢ならまだ眠っていたい。
幸せな気持ちに浸っていたかった。
窓の外の紅葉しだした木々。
いずれすべてが枯れて地に還る。
あの一枚ずつ枯れ落ちるのは僕の思い出。
来年また芽を出すことはない。
取り繕わなくていいよ。
君の選んだ道は間違いじゃない。
きっと君が選ぶ道は光で溢れている。
そう願いたい。
僕には守れなかった。
君のためになんでもしたい。
それがサヨナラでも。
綺麗ごとだけど、それしか僕にはしてあげられないから。
最後まで泣かないから。
だからその笑顔を消さないで。
はじめからわかっていた。
わかってたはずだ。
すべてが夢だったって。
君の居場所になれないことも。
君の心をつかめないことも。
車が停まる。
君は最後にキスをくれた。
不意に涙が流れ落ちた。
抱き締めたかった。
でも………
最後の精一杯の僕のつよがり。
引き止めないよ。
今ここですべてがおわってしまっても。
「ありがとね。」
君は苦しそうな笑顔をくれた。
ドアが閉まる。
僕と君の間に繋がっていたすべてが閉じるように。
「ありがとう。」
止まらない涙に声は消えた。
恋が終わった。