別宅-1
わたしは結婚に一度失敗している。だから、真面目な男、誠実な男、平凡な暮らし。それだけを重視して見た目や収入はどうでもいいと理解できるまでになっていた。
前の旦那と離婚したのは去年の秋だった。わたしは27歳で元旦那は2歳年上だった。
離婚の原因は沢山ある。不安定な転職の繰り返し、たまに女遊びをしていたことは知っていた。それでも、わたしを頼ってくれていれば離婚はしていなかったと思う。
ねぇ、今日大丈夫な日よ。
夜に誘ってみても疲れたと言われ何もない夜が殆どだった。
まだわたしは27歳。やり直しはできる。そう思って離婚して向かえた28歳だった。そんな中、海であの人と出会っていた。海で出会い車で送ってくれて「また今度よかったら会ってくれますか?」と帰り際に真面目にわたしを見つめた青年だった。
「僕と結婚を前提にお付き合いして下さい。」
何度目かの食事の後、あの人は駅のホームで大真面目にわたしに告白をしてくれた。
びっくりしたし、正直嬉しかった。
「だって私はバツイチよ。」
「そんなことはいいんです。美奈子さん、僕はあなたのそばで笑いあっていたいんです。」
「考えとくわ。また連絡するわね」
帰りの電車の中でわたしは泣きそうになるほど嬉しかった。それでもすぐに返信することはできなかった。
わたしは一度失敗している。
だからわたしは冷静に今後を考えてから答えを伝えようと思っていた。28歳でバツイチ。選ぶには時間かないことは理解していた。
だからもう一度会って真面目な告白を確かめてから承諾を決めようと思っていた。
横浜の食事にわたしから誘ってあの人を確かめようと待ち合わせした時だった。
あの人は真夏の暑い中、沢山の人が行き交う駅前できょろきょろ背伸びしたりしながら目一杯汗を流しながら私のことを必死に探してる姿を目にした時だった。
わたしにはこの人しかいない。
駅前でわたしを探す姿が愛おしく汗だくのあの人に向かって走って抱きついてしまっていた。
「付き合ってあげてもいいよ」
あの人は驚いた顔で本当ですか!としがみついたわたしの目を見直して本当ですかと何度も聞いてくれていた。
そんな付き合いから、今日初めてあの人をわたしの部屋に誘ってあげたところだった。
「美奈子さん、料理上手ですね」
「そうかしら。美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
「さっすが元人妻さんですね。美味いです」
「ちょっとー、元人妻って言いたいだけでしょ!」
「ばれた。だって響きがさぁ、なんか言いたくなるもんですよ、美奈子さん」
可愛いらしい笑顔でわたしを見つめ美味しそうに食べる人だった。わたしの2歳年下の26歳のごく普通のサラリーマンだった。
「食べたら食器洗うからそのままでいいわよ。ビールにする?それとも他がいいのかしら?」
「じゃぁ、ビールでお願いします。すごいなぁ。気配りがすごいです。それではビールを頂きます。」
「ごゆっくり。」
そう言ってわたしはちょっとした幸せを感じながら綺麗に食べてくれた食器を片付け始め、テレビをみて笑っているあの人を横目で確認して幸せのひと時を過ごしていた。
あの人とのキスは横浜で付き合うことを決めたその日の帰り、ホームの別れ際に終えていた。いい歳して学生のようなキスだった。帰り際に「本当に僕達はお付き合いしてるんですよね」そう問いかけるあの人の言葉を塞ぐように首に手を伸ばしてキスをしてあげたあの日だった。
そんな人と付き合って初めて合う週末が今日だった。いつもと違い今度はわたしからデートを決めてあげていた。付き合ったからには早く幸せになりたかったのが正直なところだった。
多分あの人は泊まっていくことになる。
わたしはあの人に抱かれると思う。
食器を片付けながら久しぶりに抱かれる高揚に何度も太腿を閉じて誤魔化していたけれど、すぐそこに迫るあの時を受け入れる準備ができてる身体に苦笑いを隠すことしかできなかった。