投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

黎明学園の吟遊詩人の最初へ 黎明学園の吟遊詩人 0 黎明学園の吟遊詩人 2 黎明学園の吟遊詩人の最後へ

プロローグ──影を歩く少年-1


プロローグ──影を歩く少年

 さて、画用紙を一枚用意して貰おう。

 出来ればワトソン紙。キャンソンでもいい。それからWinser&Newtonの透明水彩絵の具。大きな平筆に水の入った硝子瓶。それから一番大きな釘と黒いラッカースプレーにごついプライヤを二本。

 そう、それでいい。

 用意が出来たら画用紙にプルシャンブルーを絞り出して、水を含ませた平筆で四角く塗りつぶして貰いたい。ストロークは大きくね。終わったら庭にでも出て釘にスプレーを吹き付けて真っ黒に塗りつぶす。それから二本のプライヤで釘の上三分の一ぐらいの所を角度15度ぐらいに鋭角に折り曲げる。

 では、プルシャンブルーに塗られた画用紙の上に釘を置いてくれ給え。

 そう、それでいい。後はそれを見つめてくれ。もっと深く心を開いて、耳を塞いでいればいい。そう──深くのめり込むように君の部屋は滲んで消えて行く。

 わずかに生ぬるい風が吹いている。足下には膝までの草むらを感じるはずだ。プルシャンブルーの色はもっと深く、限りなく透明な夜空となって無数の星が瞬く。黒い釘がもっと深い闇となって、折れ曲がった下の部分に交互に出っ張りが見えてくる。左右にごく細い垂れた線が見えるはずだ。そう、それは傾いた電柱に違いない。

 釘の頭の部分は鍔の広い帽子になる。その下の線が僅かに膨らみはためく。あれはマントだろう。やがてゆったりとしたハーフパンツと揃えた二本の足になる。

 その影が、跳躍した。極めて緩やかに下降して行く。その両足は華奢だけどしなやかで、動きは風に揺れる葉のように優雅だ。
 踏みしめた場所は踝が隠れるぐらいの草むらだ。今は世界は開けて天上の細い金色の三日月に照らされている。その照り返しでその影の姿形が浮かび上がる。

 それは一人の少年だ。灰褐色の帽子に深緑の旧米軍のシャツ、帽子と同じ灰褐色のハーフパンツと皮のハーフブーツ。暗灰色の髪の後がひとつに編まれ、信じられないぐらいの白い肌が眩しい。右目は髪と大きな絆創膏で隠れているが、左目は漆黒で回りの風景が美しく映り込んで輝いている。桜色の小さな口唇は言われなくては少女と見間違えてしまうほど可憐だ。全体的に乏しい色彩の中で、帽子に刺したピーコックブルーの孔雀の羽根が奇妙に目立つ。首から瑠璃色のオカリナを提げているね。

 紹介しよう。彼が天羽詩音、『吟遊詩人』だ。


黎明学園の吟遊詩人の最初へ 黎明学園の吟遊詩人 0 黎明学園の吟遊詩人 2 黎明学園の吟遊詩人の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前